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論争を読み解くための重要語
サマータイム
2004.07.22 更新
 札幌市では、7月1日から1カ月間、「北海道サマータイム実証試験」を試みている。札幌商工会議所の発案で、緯度の高い北海道は、夏は午前4時ごろに太陽が昇り、午後7時を過ぎても明るい。そこで、時刻はそのままで勤務時間を1時間前倒しすることで消費活動にどんな影響があるか、市内の220企業・団体、約6000人が参加して、検証しようというものだ。

 札幌商工会議所によると、サマータイムを導入すると、その経済効果は、観光・レジャー・趣味娯楽などに対し、直接効果で約900億円(2時間で換算)、波及効果を含めると1100億円を超える新たな消費行動が誘発される、と試算している。これに対し、コンピューター関連およびシステム変更の費用は約41億円と積算され、北海道の地域振興策としてもサマータイム導入効果は十分にあると強調、今回の実験をステップにしたいと意気込んでいる。

 サマータイム(夏時間)は、エネルギーの節約などを理由に、現在、欧米諸国や中南米など世界約70カ国で導入されており、DST(Daylight Saving Time)ともいう。米国、英国、豪州などOECD(経済協力開発機構)加盟国30カ国のうち、導入していないのは、日本、韓国、アイスランドの3カ国。もともとの発案は英国で、夏季に限り、国全体で時計を標準時間より1時間進める(早める)ことによって、仕事の能率を高め、余暇を有効に利用するという目的で考えられた。1908年に英国議会に「日光利用法」という法案が提出された。しかし、そのとき実現は見送られ、1916年、英国とドイツで導入され、その後、中高緯度地帯の国々で広まっていった。

 じつは、日本でもサマータイムが導入されたことがある。連合国軍総司令部(GHQ)の指令で、1948年4月(のちに5月)の第1土曜日から、9月の第2土曜日までをサマータイム、つまりこの期間は、時計の針を全国で1時間進ませることにした。夜間に電力を消費しないよう、当時の深刻な燃料不足から導入されたものだが、朝鮮戦争による特需景気でかえって労働時間が長くなって、国民に不評(世論調査で53%が廃止を支持)を買ったため、4年後の1952年には廃止された。

 1999年3月、有識者らで構成された「地球環境と夏時間を考える国民会議」は、地球環境にやさしいライフスタイルを実現するきっかけになる、と2001年4月第1日曜日〜10月最終日曜日を実施期間とするサマータイム制度の導入を提案した。導入の理由は、(1)地球環境問題が深刻さを増している、(2)省エネ及び温室効果ガス削減に資するものであり、国民の意識改革が進むことも期待できる、(3)世論調査(1998年11月)において導入賛成が過半数に達する結果となった――の諸点。その際の対応策として、労働強化への懸念を踏まえ、時短の推進、時間外労働協定の限度基準の徹底、フレックスタイム(時差出勤)制の推進などに取り組むよう求めた。

 この国民会議は、COP3(気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議=京都会議、1997年12月)における温室効果ガス6%削減合意を受けて決定された「地球温暖化対策推進大綱」に基づいて1998年9月に設置されたもので、計4回の地方国民会議をはじめ、全国9カ所でのヒアリング、各分野代表の意見聴取、パブリックコメント募集といった意見集約を経て報告書がまとめられた。報告書では、サマータイムの省エネ効果は石油約50万キロリットル、二酸化炭素削減効果は約44万トン、全体で年間770億円の経費節約になるという試算がなされた。しかし、当時は不況下にあり、時期尚早として導入は見送られていた。

 滋賀県では、昨年7月7日から8月31日までの8週間、本庁や地方機関の県職員1876人(全体の49%)が参加して、30分から1時間、早出勤務の実験を行った。国松善次滋賀県知事は「生活習慣の見直しの必要性を県内外に啓発できた」というが、その結果を聞いたところ(不参加者も含む)、フレックスタイムと変わらないとの意見も多く、サマータイム導入には賛成と反対が45%対44%と二分された。

 社会経済生産性本部の試算によると、4月から10月までの7カ月間、国規模のサマータイムを導入すれば(時計を1時間早めた場合)、多くの人が仕事のあとに映画やショッピング、スポーツなどを楽しむようになり、9700億円のお金を消費すると予想している。また、早く眠ることで93万キロリットルの石油が節約でき、交通事故も1万件少なくなり、その結果、医療費460億円が節約できると試算している。そのいっぽうで、コンピューターの手直しなどの経費は1000億円かかるという。しかし、何よりサマータイムには、働くことを生きがいにしている日本人のライフスタイルに対する意識変革がまず先で、日本での本格的な導入にはなお時間がかかりそうだ。



関連論文

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96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2000年)省エネへの決意を示すサマータイム導入は先進国の責務である
中上英俊(住環境計画研究所所長、鹿児島大学客員教授)
(2000年)官僚の面子をたてるためのサマータイム導入論など何度でも粉砕してやる
清水信次(ライフストア・ライフコーポレーション社長兼会長)

議論に勝つ常識
(2000年)サマータイムの効用と問題点を考えるための基礎知識



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