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論争を読み解くための重要語
郵政民営化
2004.08.05 更新
 郵便、郵貯(郵便貯金)、簡保(簡易保険)の郵政3事業を民営化するのか、それとも現在の国営で独立採算性の日本郵政公社(2003年4月発足)のままでいくのか――小泉首相が「小泉改革の本丸」と位置づける郵政民営化をめぐる議論が、8月2日から、政府と自民党でそれぞれ本格化した。議論の舞台は、政府では小泉首相が議長の「経済財政諮問会議」、自民党では「郵政事業改革に関する特命委員会」(村井仁委員長)と「総務部会郵政政策小委員会」(川崎二郎委員長)だが、攻防のポイントは、(1)なぜ民営化が必要なのか、(2)ユニバーサルサービス(全国均一化サービス)を法律で義務づけるかどうか、(3)経営形態をどうするか――の3点に絞られてきた。

 そもそもなぜ民営化なのかという議論が蒸し返されたのは、日本郵政公社(生田正治総裁)が2003年度に2兆5000億円余の経常利益をあげたことにある。この結果、郵便事業の巨額の赤字解消を目的とした郵政民営化、とりわけその原因である過疎地や離島など全国どこでも一律の条件でサービスを受けられる現状のどこが不都合なのか、という意見が、自民党内や関係者の間で再び台頭してきたのだ。この背景にはもちろん、全国に2万4700ある郵便局(うち6割が特定郵便局)を集票の基盤にしている郵政族議員らが、民営化すれば縮小が必至の特定郵便局の統廃合を阻止したいという思惑がある。これに対し、経済界や学識経験者らが多数を占める民営化推進側は、「民間に任せればもっといいサービスが展開できる」(小泉首相)メリットや、法人税などが免除され、国民が間接的に負担している「見えない国民負担」(約1兆1000億円、1世帯あたり約2万3000円と試算)が最小化されるというプラス面を強調する。

 ユニバーサルサービスとは、たとえば郵便なら、国民生活に欠かせないインフラとして、都市部と山間部、離島などに同一の料金体系で郵送されるよう法律で義務づけられていることを指す。現在、郵政公社は郵貯、簡保も郵便同様の扱いをしている。しかし、民営化推進側は、郵貯、簡保のサービスは、民間金融機関で十分代替できるので義務づける必要はないとの立場だ。また、赤字の見込まれる郵便窓口業務については、別に切り離し、窓口ネットワーク会社として独立させ、生命保険など金融商品を同時に扱うことで手数料収入など利益をあげればよいとしている。だが、郵便の集配を行わず、郵貯、簡保が主力の特定郵便局にとっては、郵貯、簡保が法律の義務づけから外れることは、不採算の郵便局と位置づけられて統廃合を迫られる可能性が高く死活問題だ。このため、総務省、郵政公社、自民党は、地方へ行くほど郵貯、簡保のニーズが高いことを理由に、法律の義務づけの維持を主張している。

 経営形態については、持ち株会社をつくり、その傘下に郵便、郵貯、簡保を置いて事実上経営を一体化するか、窓口ネットワーク会社を含め、機能別の独立した4つの会社にするかが争点。民営化推進側の主張は後者で、民業の圧迫や非効率な事業を解消するため、また、郵便事業の経営悪化の影響が金融部門に及ばないようにするには、独立が不可欠であるとしている。これに対し、郵便局網の維持を目指す自民党側はじめ総務省、郵政公社は、どう譲歩しても前者の形態は譲れないと主張していて、対立の根は深い。このため、8月3日、折衷案として、民営化の時点では、郵政公社を政府が100%出資する特殊会社とし、その後、持ち株会社へ移行させ、2017年をメドに郵貯、簡保、窓口ネットワークは独立して民営化、郵便は30%を政府が保有するという3段階に分ける案が急浮上した。

 このほか、民営化後の郵貯、簡保合わせて350兆円という巨額資金の取り扱いは、新旧勘定にどう分けるかが争点になっている。これは、郵貯230兆円のうち定額貯金の180兆円は、民営化後に新設する管理機構に旧勘定として別に管理、運用し、通常貯金の50兆円は、新勘定(政府保証なし)として郵貯会社が管理、運営するという案だ。これに対し総務省や郵政公社は、旧勘定を分離すれば収益の柱がなくなり、郵政事業自体が成り立たなくなると抵抗している。さらに、郵貯、簡保資金による国債の大量購入分をどう処理するのか、民営化後の職員の身分の扱いを「みなし公務員」とするのか、また新会社の地域分割を認めるのか――といった点も議論されよう。

政府は、8月中に郵政民営化の具体案をとりまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出、成立のうえ、2007年4月から民営化を実施するというスケジュールを描いている。いっぽう、これとは別に自民党は、郵政特命委が地方公聴会を開くなどしたうえで、「郵政事業懇話会」(綿貫民輔会長)を拠点にする郵政族議員らの意見も踏まえて、独自案をまとめる方針だ。党内には、「政府の民営化案は認めない。党の了承を得ないで国会に法案を出せば大幅修正か廃案だ」と、政府主導を強く牽制する声もあり、小泉首相の「踏み絵発言」(7月22日、郵政民営化に協力してくれるかを見極め、9月人事に生かしたい)に対する反発とあいまって郵政民営化をめぐる対立が先鋭化するのは避けられそうにない。



関連論文

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96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2003年)抵抗勢力よ、郵政改革の遅れが全ての改革を頓挫させるのがわからないか
松原 聡(東洋大学経済学部経済学科教授)
(2003年)郵政民営化論者よ、何の権利あって国民の「安心」を奪おうとするのか
荒井広幸(衆議院議員)
(2001年)「いまを我慢して明日をめざす」精神の復活こそ日本改造一〇年計画の礎
小泉純一郎(衆議院議員)
(1998年)まず隗より始めよ――郵政三事業の完全民営化を断行すべき理由
小泉純一郎(衆議院議員・厚生大臣)
(1998年)郵貯民営化論は利用者の立場を無視した暴論である
紺谷典子(日本証券経済研究所主任研究員)

議論に勝つ常識
(2003年)郵政民営化についての基礎知識
[基礎知識]郵政公社設立――民営化はどこまで進むのか?
(1999年)郵便番号七桁化のいきさつと、その正当性を検証するための基礎知識
(1998年)郵政三事業の歴史と事業見直しを考えるための基礎知識



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