8月19日、全国知事会(会長・梶原拓岐阜県知事)は、焦点の義務教育費国庫負担金の削減(中学校教職員給与費8504億円)を含む3兆2284億円の国庫補助金削減案(2005〜2006年度)を、異例の挙手による採決のうえ、賛成多数(反対は群馬、山梨、長野、三重、広島、愛媛、大分の7県知事)で原案通り決定した。
国庫補助負担金、地方交付税制度、税源移譲を含む国と地方の税源配分を3点セットで改革する「三位一体改革」で、小泉首相はさる5月、2006年度までに3兆円規模を地方に税源移譲することを表明した。その見返りとなる補助金削減リストの具体案を全国知事会など地方6団体でとりまとめるよう求めたのに対し、知事会が出した回答が今回の決定だ。梶原拓全国知事会会長(岐阜県知事)は「明治維新は中央集権革命だったが、平成維新は地方分権革命だ。これを実現するため全力投球する」と、地方が国の政策形成過程にかかわる初の機会とらえ、一部の反対を押し切るかたちで方向を決めた。
国が使い道を限定して地方自治体に支出する補助金は、社会福祉施設整備など国が勧める政策を奨励する目的で支出する「国庫補助金」と、国と地方自治体がともに関与する政策の費用を分け合うため、国が義務として一定割合を支出する生活保護や道路工事などの「国庫負担金」に大別される。この二つをあわせて総額20兆4000億円が補助金として地方自治体に支出されるわけだが、このうち何を削減するべきか。総額のうち11.7兆円を占める社会保障関係は、今後の需要増加が見込まれるため、地方自治体としては手をつけたくない。残る8.7兆のうち4.8兆円の公共事業関係は、削減しても税源移譲の見返りが期待できない。結局、優先度の低い義務教育費関係の補助金(2.9兆円)を削減対象の目玉にした。
公立の小中学校教職員の給与は、義務教育費国庫負担金(総額2兆5000億円)の4分の3を占め、半額を国が負担し、残り半分を都道府県が負担している。今回の決定で、義務教育費の国庫負担金削減の対象に中学校の教職員給与費が充てられることになった。なお削減するほかの補助金は、公共事業費補助金5889億円、施設整備費補助金5712億円などで、計161項目に及ぶ。
全国知事会で義務教育費の国庫負担削減をめぐって賛否が分かれたのは、憲法が保障する「機会の均等、水準の確保、無償制」に基づいて義務教育は国が責任を持って行うという点だった。つまり、全国どこでも無償で質の高い教育ができるのは、教職員確保の財源を国が保障しているから、というのが国庫負担金の削減に反対する知事たちの立場だ。補助金がなくなり、一般財源化されると、地方財政の危機的状況からみて、一部を借金返済に充てる自治体も現れ、教職員不足などで教育格差が広がる恐れがあると彼らは指摘した。これに対し、国庫負担廃止を主張した知事たちは、一般財源化して補助金の使途の限定がなくなれば、地方の自由度が増し、実態に合わせた教職員配置などを行うことができて教育が活性化する、とのメリットをあげた。
しかし、その補助金を管轄している中央官僚にすれば、補助金を減らせば発言権は弱まる。文部科学省、国土交通省、農林水産省などが、こぞって補助金削減に反対しているのはこのためだ。そこで、予算執行の4割を補助金が占める文科省は、ことし4月に「総額裁量制」(国庫負担金の総額の範囲内で教職員給与や配置などに関する地方の裁量を拡大する)を導入したのに続き、8月10日、河村建夫文部科学相が国庫負担金制度の堅持を前提にした「六・三制」の区分変更を地方の判断に委ねるなど、義務教育制度改革私案を発表して巻き返しに出た。また、個人住民税(地方税)として税源移譲されると、税収の差が出て県によっては現行の教育費の確保が困難になる。収入が増えてユニークな教育の導入ができるのは東京、愛知など7都府県にすぎない――といった試算も明らかにして、削減賛成派を牽制した。自民党文教制度調査会の保利耕輔会長も「義務教育を本当に地方に任せてよいのか、政府は与党と相談して削減を決めるべきだ。また国会で十二分に議論して決めることで、慎重さを欠けばとんでもないことが起きかねない」と義務教育労力の低下を理由に反対を表明した。
「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)では、補助金削減の地方案について、「案を踏まえて検討する」と書かれているだけで、自治体の決定がそのまま実現するわけではない。現に2004年度は1兆313億円の補助金を削減したが、見返りの税源移譲は6558億円にとどまった。その一方で地方交付税の総額は2兆8623億円も減らされ、地方が猛反発した経緯もある。総務省は地方分権を推進する立場から、補助金の一般財源化を強く後押ししており、文科省と激しく対立、いっぽう財務省は地方への税源移譲に慎重で、この3省による三つ巴の攻防が、補助金を減らされる厚労省、国交省、農水省なども巻き込み、年末の予算編成にかけて激化しそうだ。このため、8月24日、小泉首相は、調整の場として、全国知事会など地方6団体代表と官房、財務、総務の各閣僚らによる協議機関の設置を決めた。
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