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論争を読み解くための重要語
国際原子力機関(IAEA)
2004.09.16 更新
 9月13〜17日、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、以下IAEA)の定例理事会がウィ―ンの本部で始まった。エルバラダイ事務局長は、冒頭声明で、韓国が1980年代にウラン濃縮につながる転換実験を秘密裡に行っていたとの調査結果を報告し、深刻な懸念を表明した。またイランの核開発問題については、ウラン濃縮に向けて活動を一部再開したことを報告、イランは平和利用が目的だと主張するが、信頼は得られないと指摘した。

 IAEAは、原子力の軍事利用を防止し、平和利用を促進するために、1957年7月に設立された国際機関で、134カ国が加盟している。核査察と平和利用のための技術援助を主な業務として、核物質を兵器に転用していないかなどを、核拡散防止条約(NPT)加盟国を対象に核関連施設を査察する権限を持つ。1970年に発効したこの条約の締約国は188カ国。米英仏中露の5カ国だけに核保有を許した条約で、その他の国は、平和利用の権利だけを認めている。ちなみに北朝鮮は2003年1月、脱退を宣言した。

 いま、IAEAが直面しているのは、韓国、イラン、北朝鮮の核開発問題だ。韓国(1975年にNPT加盟)の場合、韓国原子力研究所が2000年6月にレーザー法(天然ウランやその化合物の蒸気に特定の波長のレーザーを当て、原発の燃料や核兵器の材料になるウラン235を分離する。ほかに遠心分離法、ガス拡散法がある)によるウラン濃縮実験を行い、0.2グラムの高濃縮ウラン生産に成功していたことが判明(9月2日)したほか、1980年代にはプルトニウム抽出実験(1982年)とウラン転換実験を3件とも申告せずに行っていた。 これらは、NPT加盟の非核保有国の査察受け入れ義務を定めた「保障措置協定」(1997年)に違反しているが、韓国政府は「核燃料国産化の研究だった」と釈明している。

 米国が「テロ支援国家」と名指ししているイランは、2000年8月、反体制組織が極秘のウラン濃縮施設の存在を暴露、03年2月からのIAEAの査察の結果、申告せずにプルトニウムの抽出実験を行ったり、闇市場で遠心分離機を調達していることがわかった。イラン政府は、情報公開には消極的で、ことし6月18日、IAEA理事会は非協力的な態度に対して非難決議を採択した。11月の理事会で包括的な報告を行ったうえで経済制裁に道を開く国連安全保障理事会へ付託するかどうかを決める。イランは、IAEAによる強制査察の受け入れなど核拡散の監視活動を強化する保障措置協定の「追加議定書」(署名84カ国、うち締結58カ国)を批准していない。

 北朝鮮の核開発問題は、6月に開かれた6カ国協議の第3回協議で、北朝鮮は、平和利用目的以外の核開発を凍結することを提案するいっぽう、IAEAの査察を拒否し、その見返りにエネルギー支援(200万キロワット分)を要求した。これに対して、「完全かつ検証可能で不可逆的な核の廃絶」(CVID)を迫る米国と日本は、北朝鮮の要求を拒否、その結果、「朝鮮半島の非核化に向け、第一段階の措置を可能な限り早期に取る必要性がある」点で合意するにとどまった。

 日本は、平和利用に使われている高度なウランの濃縮設備やプルトニウム再処理技術を持つが、IAEAは6月14日、日本の原子力が軍事転用されていないことを最終的に確認した。約50基の原発を保有する大規模な非核保有国がこうした認定を受けたのは初めてで、これにより日本向けの査察が約1割軽減される「統合保障措置」が9月15日から適用されることになった。その分、イランの監視強化などに振り向けられることになる。

 今回のイラン核開発疑惑や韓国の核秘密研究問題で、はからずも浮き彫りになったのは、平和利用の中身を検討するとき、核保有国が「二重基準」(ダブルスタンダード)を使っているのではないかという疑念である。NPTでは非核保有国の濃縮、再処理を含む平和利用を権利として認めているのに、プルトニウム抽出など同じ実験をしたイランと韓国に対して、米国が対応に差をつけているというわけだ。すでに北朝鮮は、核開発をめぐる交渉の材料に、米国の二重基準を使い始めている。



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