9月21日、政府税制調査会(首相の諮問機関)は総会を開き、2005年度税制改正に向けた議論を開始した。石弘光会長は記者会見で、焦点の定率減税について、個人的見解と断りながら、「政府税調は景気動向とは切り離して縮小・廃止を決める。廃止は実質的に大増税になる。一度に行うのは難しい。06年1月から2年かけて半分ずつ縮小するのが現実的だ」と述べ、05年度で半減し、06年度で廃止する考えを表明した。
定率減税とは、1999年、小渕内閣が景気対策の一環として実施した恒久減税で、個人所得税の税額から、所得税(国税)は20%(上限25万円)、住民税(地方税)15%(同4万円)を割り引く(対象は給与収入300万円超)。減税規模は3兆3000億円にのぼり、就業者の約7割がこの恩恵を受けている。
政府・与党は、昨年暮れ、基礎年金の国庫負担引き上げ財源(約2兆7000億円)に充てるため、いったんは廃止を検討した。しかし、04年の参院選への影響を心配して見送っていた。
石会長は、縮小・廃止の理由として、定率減税が所得税の構造を歪めていることや、導入時にくらべ景気がよくなっていることをあげた。しかし、そのいっぽう、「直前の景気動向をみたうえで、時期を延期するやり方もある」と語り、柔軟に対応する用意のあることを示唆した。これは、定率減税が高所得のサラリーマンにとって有利なため、その反対に配慮したものとみられる。
民間シンクタンク、日本総合研究所の調査によると、定率減税が05年度に半減された場合、年収700万円台の平均的なサラリーマン世帯(夫婦子ども2人)では可処分所得額(税引後の手取額)が約5万円減り、年間の個人消費は全体で約1兆3000億円(03年度の0.45%分)減少すると試算している。また、別の試算で増税額は、年収500万円の世帯で約2万円、750万円世帯で約5万円と計算されている。
景気の動向は、昨年後半から回復の傾向が鮮明になってきている。だが、識者の間では、名目雇用者報酬が4四半期連続で減少していることなどを挙げて、企業収益の改善が家計の所得にまで波及しておらず、家計所得環境は依然として厳しいとの見方が多い。加えて10月から厚生年金保険料が引き上げられ、来年には配偶者特別控除が廃止されるなど、家計の負担が増えるのは必至で、消費者マインドの冷え込みが懸念されている。
日本総研では「景気減速のタイミングと重なり、定率減税の縮小・廃止は、時期尚早。かりに実施するなら、家計が収入減を意識しない程度にまで縮小規模を抑え、09年度までに段階的に廃止すべきだ」と提言している。
年金改革を終始リードしてきた公明党は、昨年暮れ、定率減税を廃止して、浮いた財源を、基礎年金の国庫負担を現行の3分の1から2分の1に引き上げる財源に充当するよう要求した。これは、定率減税を廃止しても低所得者層が受ける影響が少ないことに着目したものだ。その際も、5年間かけて段階的に廃止するよう提案していた。
このとき自民党は、「中堅層が増税になる。経済を軌道に乗せるため、消費にどう結びつけるかというときに、サラリーマンの負担が多くなるのはいかがなものか」(額賀福志郎政調会長=当時)と反対した経緯がある。定率減税廃止をめぐる税制改正論議が今後どう展開するか。今回は選挙という重石(おもし)がない分だけ決まる公算が強いが、景気動向や年金財源が絡むだけに、その行方が注目されている。
|