10月12日、臨時国会が開会した。政府が提出する独占禁止法改正案の柱となる課徴金の引き上げ幅は、経済界や自民党との調整の結果、当初の12%をカットし10%とすることで決着した。課徴金は、取引を制限する談合やカルテルを防止するため、違反した企業に対して、刑事罰とは別に違反対象の売上高に課すもので、「行政制裁金」といわれている。製造業などの大企業で6%、中小企業3%の現行課徴金を、改正後それぞれ10%、4%に引き上げることになった。独禁法の抜本改正は課徴金制度を新設した1977年以来で、課徴金の引き上げも1991年以来のこととなる。
公正取引委員会は、課徴金の水準を欧米並みにすることを目指して、現在の2倍、12%とすることを提案した。課徴金制度は、違反企業を制裁する「不当利得の剥奪」という性格がある。ちなみに米国の課徴金は違反期間中の当該商品の売上高の15〜80%、欧州連合(EU)は総売上高の10%以下だ。公取委の提案は、過去の入札談合による不当利得率が平均16.5%であることを参考にしたものだ。しかし、「日本経済は不況克服の途上にあり、課徴金をいっきに引き上げると、倒産に結びつきかねない」、また、「もともと課徴金と刑事罰との二重処罰は憲法(39条)に違反する」(日本経団連)などと経済界が強く抵抗したため、なお調整の必要があるとして先の通常国会への改正案提出は見送られた。
経済界への配慮はそればかりではない。今回の改正案には、談合を自発的に申告した場合、課徴金を減免する「課徴金減免制度」の導入が初めて盛り込まれている。当初は先着2社にしていた減免対象を3社に増やし、最初に申告した会社は課徴金を免除、2社目は50%、3社目は30%の減額とすることにした。また、課徴金を課す算定期間の上限も、当初の4年が現行の3年に据え置かれ、実質的な減額を図った。さらに、公取委は審判手続きのあり方や課徴金と刑事罰の関係を見直すため、改正法の施行後2年かけて結論を出すことになった。
いっぽう経済界のなかでも、「自由競争のルールを犯した企業に厳しい罰則を与えるために、課徴金を引き上げるのは妥当だ」(北条恪太郎代表幹事)と公取委に賛成していた経済同友会は、調整が最終決着したことについて、「談合やカルテルを前提にしないと経営が成り立たないというのでは、非効率な企業経営が温存されている証拠だ」と現状を批判した。
公取委は10月5日、鋼鉄を使用した橋梁工事の受注をめぐり、談合を繰り返していた容疑(独禁法違反の不当な取引制限)で、新日本製鉄や三菱重工業など約40社の立ち入り検査に踏み切った。橋梁工事は年間約4000億円の巨大市場。公共事業が縮小するなかで、はからずも日本の重工業を支える鉄鋼、造船の大企業が容疑の対象になったということは、彼らの談合によって入札の高値を維持し、共存共栄が図られていたことになる。
27年前の独禁法改正案は、経済界に加えて自民党の抵抗もあり、成立まで2年8カ月を要したいきさつがある。今回は事前の調整で経済界の意向が反映されたことから、臨時国会での成立は間違いないとみられている。しかし、談合に象徴される日本の排他的な取引慣行の撤廃を迫る米国の圧力もあり、公取委が将来に改めて改正案を提出することもありそうだ。
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