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政冷経熱
2004.11.25 更新
 経済は熱を帯びているが、対照的に政治は冷え込むばかり――という、いまの日本と中国の関係を象徴的に表現したのが「政冷経熱」である。その言葉がピッタリあてはまったのが、11月21日夜(日本時間22日朝)、チリ・サンティアゴで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の閉幕後に行われた日中首脳会談だった。首脳同士の往来が3年余り途絶え、会談は1年1カ月ぶりであった。

 日中間が「政冷」になった原因のひとつが小泉首相の靖国神社参拝である。胡錦濤・国家主席は、小泉首相に「政治交流停滞の原因は、日本政府指導者の靖国神社参拝にある。適切に対処して欲しい」と、小泉首相を指して参拝の中止を求めた。首脳会談では異例の発言である。これに対し、小泉首相は「誠意をもって受け止める」と応じつつも、「参拝は心ならずも戦場で亡くなられた方へ哀悼の誠をささげ、不戦の誓いをするためだ」との持論を展開した。議論はかみ合わず、平行線をたどった。

 東条英機元首相らいわゆるA級戦犯を合祀している靖国神社への首相参拝をこのように厳しく追及した背景には、胡主席が、国家、共産党、軍の三権を掌握したいま、歴史問題に根ざす国民の反日感情への配慮があるのを見逃せない。経済成長にともない貧富の格差が広まるなか、内陸部では国民の不満が広がっており、対日関係で譲歩すれば、“売国行為”と非難され、政権の基盤を揺るがす原因のひとつになりかねないからだ。中国原潜の領海侵犯に対する再発防止や、東シナ海におけるガス田開発の自制について、胡主席が「大局的見地で解決したい」というだけで明確な意思表示を避けたのも同様の理由からだ。

 こうして政治がぎくしゃくした関係にあるのにくらべ、いっぽうの経済関係は順風満帆だ。昨年の日中貿易総額は1324億ドル(前年比30.4%増)で、いまや日本は中国にとって最大の貿易相手国である。日本の対中投資額(契約ベース)は前年比65%増。また、中国商務省が11月12日に発表した対外貿易白書(2004年秋季版)によると、ことしの中国の貿易総額は1兆1000億ドルとなり、貿易立国の日本を抜き、米国、ドイツに次いで世界3位になる見通しだ。

 この点、日中関係が抜きさしならない対立関係に陥るのだけは避けたいとの配慮が日中双方にある。「未来思考での実務的関係」を重視する胡主席が、経済、文化面、青少年の交流促進を今回の首脳会談で提案したことにそれがうかがえる。小泉首相も原潜問題の追求を控えるなどの政治的配慮を示した。しかし、日本国内では、中国向けのODA(政府開発援助)廃止を求める声が大きくなるなど、「嫌中国」感情が「反中国」へと発展することを憂慮する識者もいる。2008年の北京オリンピック開催へ向けて一瀉千里の中国だが、新時代の中国に対しては、小泉首相はじめ外務省の、ここ一番の外交能力が問われているのは間違いない。



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