11月30日、衆院政治倫理審査会(小里貞利会長、委員25人=内訳・自民13、民主10、公明2)が開かれ、日本歯科医師連盟の1億円ヤミ献金疑惑事件に関与したとされる橋本龍太郎元首相が出席し、質疑に応じた。橋本氏の意向で非公開だったが、25人の衆院議員の傍聴は許可された。
1時間半にわたった審査会で、橋本氏は、これまで日歯会長と会食し、自ら1億円の小切手を受け取ったことや同席者について「記憶にない」としていたのを、「受け取って派閥の会計責任者に渡したのは事実なのだろう」と発言を修正した。しかし、焦点の政治資金規正法違反(不記載)に絡む関与に対しては「全くかかわっていない」と全面否定した。
政治倫理審査会は、1985年12月、国会法(124条)を改正して衆参両院に設置された。国会議員が政治倫理綱領や行為規範その他の法令に著しく違反し、政治的、道義的に責任があると認められるかどうかについて審査し、役職辞任、登院自粛など適切な勧告を行う機関である。田中角栄元首相がロッキード事件裁判で一審有罪判決を受けたため、国会として襟をただす目的で導入された。しかし、審査会は疑惑を受けた本人が申し出るか、委員の3分の1以上の申し立てを受けて協議し、かつ出席者の過半数の賛成を得ないと開けないという制約がある。ちなみに参院の審査会(委員15人)は一度も開かれていない。
衆院の審査会が開かれたのは、設置以来今回で7回目。96年9月、加藤紘一・自民党幹事長(当時)が鉄骨加工メーカーから受けたヤミ献金疑惑が最初だった。以降、山崎拓(98年6月、政調会長、石油卸商からの資金提供疑惑)、額賀福志郎(01年2月、経済財政相、KSD=中小企業経営福祉事業団からの資金提供疑惑)、田中真紀子(02年7月、外相、秘書給与流用疑惑)、松浪健四郎(03年5月、保守新党国対副委員長、秘書給与肩代わり疑惑)、原田義昭(04年5月、文部科学省副大臣、学歴虚偽記載疑惑)――ら各氏が審査を受けている。
政治倫理審査会での弁明は、かりに虚偽だとしても偽証罪には問われず、議事録も非公開のため、疑惑を受けた本人には都合がよく、これまで証人喚問を避ける手段に利用されてきた。これに対し、憲法62条に保障された国政調査権に基づく「議院証言法」によって行われる証人喚問は、出頭、証言が強制的に行われ、もし虚偽の証言をしたことがわかった場合には「3カ月以上10年以下の懲役に処す」との罰則規定があり、その厳しさは雲泥の差がある。
橋本氏の弁明は本人の申し出により実現したもので、自民党が野党側の証人喚問要求を拒否した見返りとみられている。野党側が公判での被告人(会計責任者)供述や、在宅起訴された村岡兼造元官房長官(事務総長)発言との食い違いなどを追及したものの、橋本氏はあくまで政治資金収支報告書不記載への関与を否定した。検察側がすでに橋本氏の不起訴処分を決めた後ではあるが、野党側は、真相の解明にほど遠いとして、来年の通常国会でも引き続き証人喚問を求めていく方針だ。
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