国内で生産、流通する牛肉がいつ、どこで、だれがつくり、どういう経路をたどったかの表示が、12月1日から小売店や専門店(牛肉料理が過半数を占める)に法律で義務づけられた。この法律は、通称「牛肉履歴管理法」(牛肉トレーサビリティー法)、正式名称を「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」という。産地などの偽装を防止し、情報を公開することで牛肉への信頼を回復する目的で、2003年6月に制定された。同年12月から生産および食肉処理の段階で法律が施行されたのに続き、今回は流通段階でも適用されることになった。
3年前のBSE(牛海綿状脳症=狂牛病)の発生をきっかけに、牛肉の安全や品質に対する消費者の関心が高まったのを受け、国内で生産されたすべての牛(年間約140万頭)と、生体で輸入された牛に、10ケタの数字からなる「個体識別番号」を割り振り、耳標(じひょう)として装着することを義務付けた。この数字により、生産者名、牛の種別、生年月日、食肉処理の場所、移動歴などの情報が記録される。なお個体識別番号は3年間の保存が義務づけられる。いっぽう消費者は、パソコンや携帯電話で独立行政法人・家畜改良センターのホームページにアクセスし、個体識別番号を入力することによってこれらの情報を知ることができる。
トレーサビリティー(traceability)とは追跡可能性の意味で、食品などの産地や流通経路の履歴を確認するシステムを指す。1990年代後半から欧州連合(EU)で導入が進んだが、日本のように小売りの流通段階にまで対象を拡大したのは世界で初めてだ。スーパーや精肉店など約4万店の小売店では、値札や包装パックに個体識別番号が表示され、焼き肉店やステーキハウスなど約1万の専門店ではメニューやレジ、ボードなどで明示する。
しかしこの法律では、生体でない輸入牛肉と、部位では舌、ほほ肉、横隔膜(ハラミ)肉、内臓肉が対象外になっているのと、専門店以外のファミリーレストランや食堂などの料理店が除外されているのが問題視されている。これは農林水産省が、輸入先の米国などでは個体を識別する制度がなく、各部位の需要が比較的少ないことや複数の牛肉を混ぜて使う点などを配慮したためだ。また、個体識別番号を店頭のラベルに印字する機械が約80万円もするため、流通コストが増大し、価格にはね返る恐れもある。
いっぽう、この法律では、不正や偽装の表示に対して罰金30万円以下という罰則規定があり、12月7日には、北海道の畜産業者が血統書付きと偽って耳標を付け替えた子牛を販売していたことがわかり,同法違反と詐欺容疑で警察に摘発、逮捕された。購入した畜産商が子牛の特徴の不自然さに気づき、家畜改良センターに血液検査を依頼したことから偽装が判明したもので、早くも法律の盲点を衝かれている。
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