昨年12月26日、インドネシア・スマトラ島沖で発生したマグニチュ―ド(M)9.0の巨大地震は、インド洋で高さ10m超の大津波を引き起こした。1月5日現在、沿岸諸国での死者は約15万人を超え、いまなお正確な数を確定できない大惨事となった。1月6日には急きょ、国連や日本、米国、ASEAN等による被災国支援緊急首脳会議がジャカルタで開催された。タイ・プーケット島などで日本人観光客も被害にあい、23人の死亡が確認され、なお538人の安否不明者がいる。
地震の規模を表わすマグニチュードが8以上になると巨大地震という。スマトラ島沖地震は、海域の板状の岩盤であるプレートの境界で起きた海溝型地震で、過去100年間では5番目の大きさ。引きずり込まれた陸側のプレートが跳ね上がって起きるが、震源が地下約10kmと浅く、海底面の変形が大きかったため大津波になった。日本の巨大地震では、元禄(1703)、宝永(1707)、安政東海(1854)と、関東大震災(M7.9、1923.9.1、死者・不明者約14万2000人)が同じ型のものだ。阪神・淡路大震災(M7.3、1995.1.17、死者・不明者6436人)の場合は、これとは違って、震源が地表に近い内陸部で起きる直下型地震である。
専門家の間では、東海(静岡県から浜名湖沖)、東南海(浜名湖沖から潮岬沖)・南海(潮岬から足摺岬)および三陸沖の三つの地震については、「いつ起きてもおかしくない」と言われていたが、ようやく政府の「地震調査委員会」は、昨年8月、「今後30年以内に南関東でM7程度の地震が起きる確率は70%」との予測を発表した。政府は、「大規模地震対策特別措置法」、「東南海・南海地震対策特別措置法」を昨年7月末までに相次いで制定し、防災計画作成を自治体や病院、デパート等に義務づけた。しかし、たとえば「ハザードマップ」(津波発生の場合の浸水区域や避難場所を記入)を作製、公表した自治体(対象数652市町村)はまだ1割足らずで、対策は遅々として進んでいないのが実情だ。また政府は、地震予知の限界を踏まえて、地震対策の基本を「予知」から「減災」へとシフトし、広域防災体制の導入や家屋の耐震強化を打ち出してはいるが、住宅4400万戸のうち耐震性に不安のある約3割は、いまだ改善されていない。
スマトラ島沖地震は改めて巨大地震の恐ろしさを教えた。公的資金による家屋の耐震強化改築など「公助」はもちろん、企業を含む地域が一体となって取り組む「共助」、個人で講じる「自助」の三本柱がそろって初めて有効な地震対策となる。「『海はわからんのですよ。突然波が高くなるのは何も津波だけではない。だから私ら“決して海に背を向けるな”と小さいころから教えられたものです』と嘆いた地元の人の言葉が忘れられない」――東京新聞のコラム『筆洗』(12月28日付)に、21年前の日本海中部地震のとき、男鹿半島・加茂漁港そばの浜辺で、昼食をとっていた13人の小学生が突然津波に襲われて死亡した悲劇が、教訓として記されていた。また同紙で、津波防災工学が専門の今村文彦東北大教授は「津波が押し寄せたらという意識があるなしで被害は二ケタ違う」といっている。ひとりひとりが、地震や津波という自然の脅威に対して畏れと警戒心を持つことが自衛の第一歩なのであろう。
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