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ミーガン法(性犯罪者公開法)
2005.01.13 更新
 12月30日、奈良市の小一女児を帰宅途中に誘拐し、暴行のうえ殺した犯人が逮捕された。その後、この犯人に性犯罪の前歴があったことがわかり、改めて性犯罪の再犯防止への関心が高まっている。こうしたなかで注目されているのが、米国の性犯罪者の情報を公開する「ミーガン法」(Megan's Law)である。

 もともとは1995年7月、ニュージャジー州の州法としてつくられたものだが、いまは米国連邦法(1996年5月成立)になっている。この法律は、性犯罪で2回目に有罪となった人間を登録し、釈放後10年間は定期的に監視、地域社会に戻るときは州政府が警察に警告することを義務づけている。クリントン・民主党政権が連邦法に格上げしたさい、警察が住民に対し性犯罪歴のある者が住んでいる家を知らせることを義務づけた州もある。

 ニュージャージー州でこの法律が制定されたのは、94年7月、当時7歳のミーガン・カンカちゃんが、幼女暴行歴のある男に強姦され殺される事件がきっかけだった。両親が「私たちが犯歴を知っていれば用心するから、防ぐことができた」と性犯罪者公開法の制定を求める運動を始めたことから、多数の賛同を得て同法が成立した。その後、2003年3月には、刑期を終えた性犯罪者の住所と写真をインターネット上で公開する改正案が米連邦裁判所で合憲と判断されたほか、テネシー州では05年から仮出所した性犯罪者を衛星(全地球測位システム=GPS)で24時間追跡するシステムが試験的に導入されるなど、各国とも強化される動きが目立っている。韓国でも01年に同種の法律がつくられ、英国では04年秋から性犯罪常習犯を衛星で監視するシステムを実験的に始めた。

 漆間巌警察庁長官は1月6日の記者会見で、「性犯罪者の前歴はいまも照会が可能だが、どこに住んでいるかは出ない。少なくとも警察署が把握していれば、警察活動に使える。公開するかどうかは、関係機関と相談しながら積極的に取り組んでいきたい」と、性犯罪者の住所把握システムの構築に取り組み、情報公開にも前向きな考えを示した。警察庁は、性犯罪抑止策として、04年12月から英国やドイツなど41カ国が採用している前歴者のDNA情報のデータベース化に取り組み始めている。

 ただ、ミーガン法を日本に導入するとなると、(1)性犯罪者の社会復帰を事実上閉ざすもので、再犯や逃亡、自殺に追い込みかねない、(2)プライバシー保護や少年法でいう氏名・容貌等の非掲載の原則に抵触する場合がある、(3)性犯罪を殺人や強盗と同様の重大犯罪にし、量刑を重くするほうが再犯防止に役立つ――など人権上の問題を指摘する法律関係者が多い。法務省も、この種の法律の導入には消極的で、南野法相は「プライバシーや円滑な社会復帰への支障がないか考えると大変難しい問題」との慎重論を述べている。小泉首相は1月11日、警察が住居情報を把握することを「必要だ」と認めたが、情報公開については「難しいと思う」と否定的な見解を示した。今後、導入の是非が論議を呼びそうだ。



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