2月4日、日本人が初めて、BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)に感染した牛肉を食べて発症する変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で死亡していたことがわかった。50代の男性で、狂牛病が確認された後の1989年に約1カ月、英国に滞在していた。
96年、英国で初めて確認された病気で、人間が変異型ヤコブ病にかかると、イライラなどの精神疾患や、運動障害、痴呆症状、手足の震えなどが起きる。進行すると、寝たきりになり、やがて死に至る。原因は、BSEの病原体たんぱく質「異常プリオン」で、これに汚染された牛肉を人間が食べると、牛と同様に正常プリオンが変異し、脳がスポンジのように空胞だらけになると考えられている。ヤコブ病は、これ以外にヒト硬膜移植などが原因の医原型(薬害)ヤコブ病、全体の8割を占める原因不明の孤発型ヤコブ病があり、発症するのは100万人に1人の割合といわれる。日本では、97年に神経難病症に指定された。
感染から発症までの潜伏期間は数年から25年以上。感染や発症をもたらすプリオンの量など、詳しいメカニズムについてはいまなお不明だ。厚生労働省の調べによると、2005年1月13日現在、世界で167人の患者が報告され、うち英国が153人を占めている。ほかは、フランス9人、アイルランド、イタリア、米国、カナダ、日本が各1人。
英国でBSE感染牛が初めて確認されたのが86年。88年に届け出伝染病に指定され、脳など特定危険部位の食用が禁止されたのが89年11月だった。日本では01年9月に初めて確認された。今回、死亡した男性が発症したのは40歳代のときで、89年ごろに英国に1カ月の渡航歴がある。01年12月には、焦燥感が起きるなど精神状態が不安定になり、その後痴呆症(認知症)の症状が進行し、昨年12月に死亡する前の半年間は寝たきりの状態だった。死亡後に家族の承諾を得て、脳に蓄積した異常プリオンの病理検査をして変異型ヤコブ病と判明した。
変異型ヤコブ病は、献血による二次感染が英国で2例あるだけで、ふつう人から人へ感染した例はないとされ、発症防止のためには、BSE感染牛の食用を避ける以外にない。日本では、01年10月から、牛肉の全頭検査と危険部位の除去を行い、03年10月以降は、米国産牛肉の輸入を禁止している。しかし、昨年10月、日米両政府は、輸入再開についてBSE感染の恐れのない生後20カ月以下と書面で確認される牛を検査対象から外して解禁することで合意済みだ。2月8日、専門家会合は、食肉の格付けによる生後日数判別法についても正確さを確認の上で輸入条件に加える方針で合意した。だが、今回の変異型ヤコブ病患者の死亡によって、消費者の間ではより厳しい条件を求める声が強まり、7月にも予定している輸入再開がずれ込むこともありそうだ。
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