2月10日、東京・北区の繁華街にある温泉掘削現場で天然ガス火災が発生し、鎮火に丸一日かかった。深さ1500mの地下から水溶性のメタンガスが泥水とともに噴出、それに割れた裸電球の火花が引火したとみられている。石油鉱業連盟天然ガス鉱業会の話では、千葉全域をはじめ、東京都、神奈川、埼玉、茨城の各県にまたがる関東一円の地下層には「南関東ガス田」が存在するという。現に、関東瓦斯開発会社によると1891年、千葉・大多喜町で天然ガスが発見された記録が残っているという。
発火原因の泥水は、約300〜40万年前の海底に堆積した砂岩と泥岩から成る地層の間にある水に天然ガスが溶けたものだった。地中に埋もれたプランクトンなどの動植物がバクテリアによって分解され、生じたメタンガスが主成分で、深度500〜2000m付近にある。千葉・九十九里浜、茂原、東京南部、川崎にかけて分布していて、房総半島南部では比較的に浅い場所にこの泥水がある。昨年4月、「九十九里いわし博物館」で起きた爆発死傷事故も滞留した天然ガスに引火したのが原因とみられている。天然ガスは空気の6割程度の重さなので、ふつう大気中に出ると拡散してしまうが、何らかの原因でガスが滞留し、これに着火すると爆発する危険がある。
天然ガスの開発は、「鉱業法」の規定によって、監督官庁へ鉱区の設定を届けるなど規制をクリアして初めて許可されるが、今回の場合は温泉掘削が目的で、東京都自然環境保全審議会が業者の申請を受けて「温泉法」によって許可した。このため、ガス対策の規制は受けず、工事内容や掘削深度などに応じて都環境衛生課がガス対策を指導しただけだった。大量のガス噴出防止には通常「暴噴防止装置」を使うが、今回は穴からの地下水の噴出をふさぐのに、10トンの圧力に耐える「パッカー」というふた状の装置を使用していた。近年の温泉掘削ブームで、東京都内では、昨年度に7件、今年度も11件が許可されていた。中央温泉研究所の甘露寺泰雄所長は「圧力が強い天然ガスの具体的な分布はわかっていない。ガス対策専門でない温泉掘削業者も万一の事態を想定した対策を講じる必要がある」と警告(東京新聞、2月15日付)している。
経済産業省の調べによると、2003年の天然ガス生産量は28億4350万8000立方メートルで、第1位は新潟県、次いで千葉県で、ほかに秋田、山形、北海道、石川、愛知、大阪にも天然ガス田がある。とりわけ千葉県の場合、可採埋蔵量は3700億立方メートルに達し、今後600年にわたって採掘が可能だといわれている。
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