かつては世界のトップレベルにあるといわれた日本の学力が一段と低下していることが明らかになり、官民問わず教育のあり方を見直す動きが強まっている。2月15日、中山成彬・文部科学相は、中央教育審議会(中教審、会長=鳥居泰彦・慶応義塾学事顧問)で、現行の学習指導要領の主軸である「ゆとり教育」の見直しを秋までに取り組むよう求めた。中山文科相は「現行指導要領の理念や目標に誤りはない。ただ、その狙いが十分達成されているかに課題がある」との認識を示したうえで、具体的には、(1)基本的教科、とくに国語、理数、外国語の改善・充実、(2)各教科や総合的学習の授業時間数のあり方、(3)学校週5日制における土曜日や長期休みの活用――などを検討するよう要請した。
学力低下が浮き彫りにされたのは、昨年行われた知識の活用力を問うOECDの「国際学習到達度調査」と、知識の量を問う「国際数学・理科教育動向調査」で、前者では対象(41カ国・地域の15歳、約27万6000人)のなかで日本は、読解力は前回(2000年)の8位から14位、数学的応用力は1位から6位に後退した。後者では対象(25カ国・地域の小学4年、46カ国・地域の中学2年、計約34万人)のなかで小学理科が前回(1995年)の2位から3位、中学理科が前回(1999年)の4位から6位へ下がった。
学力低下の有力な原因のひとつとされているのが「ゆとり教育」だ。受験競争の過熱や落ちこぼれを生み出した知識偏重の「詰め込み教育」を改めるため、文部省が1977年の学習指導要領改定のさい、「ゆとりある、充実した教育を重視」を盛り込んだものだ。以来この指針は今日まで続いている。子どもたちの自主性や生きる力を伸ばすという目的で授業時間数や教育内容を減らし、学校・教員の裁量権、つまり自由度を拡大した。89年改定では、「個性の尊重」、「心の教育」を打ち出し、生活科(小学校1、2年)の導入、高校家庭科の必修化、高校社会科にかわる地歴と公民を導入した。さらに98年改定では、生きる力の育成をうたうゆとり教育の目玉とされる「総合的な学習の時間」を創設、学校週5日制の導入、教科内容の3割削減が行われた。この現行指導要領は、小中学校が02年4月から、高校が03年4月から実施している。
ゆとり教育が30年近く続いてきた理由には、80年代半ばまで米国教育界で主流だった子どもの自主性を尊重する教育を文部省が押し進めたことが背景にある。これに日本教職員組合連合会(日教組)が同調した。日教組は70年の運動方針で、教職員の労働時間短縮と賃金向上を重点に「勤務時間のゆとりによって、教育活動での子どもたちのゆとりを実現する」ことをいち早く打ち出していた。だが、当の米国は85年以降、日本の教育を視察し、詰め込み教育の成果が高度経済成長をもたらしたことを評価し、それまでの多様性重視の教育を転換していた。
読売新聞の世論調査によると、ゆとり教育への評価は、99年には賛成が58%、反対36%だったのが、2001年は反対48%、賛成44%と逆転、02年は反対67%、05年1月は72%と、いまでは否定派が圧倒的多数を占めている。
中山文科相は、2月20日、NHKの番組に出演したさい、「教科をまたがって学習したり、子どもにみずから考え、生きる力を身につけさせるには知恵や議論も必要だ。その意味では総合学習は必要」と語り、ゆとり教育の軸である総合学習の全面廃止まで踏み込むことはないとの考えを示した。今後、中教審に舞台を移すが、論議を呼びそうだ。
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