2月27日、たばこの消費削減を目指して、公衆衛生分野で初めての国際条約「たばこ規制枠組み条約」(WHO Framework Convention on Tabacco Control)が発効した。世界保健機関(WHO、192カ国加盟)が主導して2003年5月に採択され、167カ国と欧州連合(EU)が署名、英国や日本など計57カ国が批准した。しかし、たばこの消費量では世界一の中国と第二位の米国は批准していない。ちなみに日本は第三位の消費大国だ。
WHOによると、たばこが主原因とみられる死亡は世界で年間490万人、このまま放置すれば2025年には1000万人に達するという。日本の場合、JT(日本たばこ産業会社)の全国喫煙者調査(04年。成人1万6000人対象)によると、喫煙率は成人全体で29.4%。男性喫煙者は男性全体の46.9%と約半分を占める。先進国中でトップだ。女性喫煙者は女性全体のうち13.2%だが、この10年間に20代女性の喫煙率が倍増し、未成年の10代でも増えている。
このたばこ条約の発効によって、今後3年以内に、健康被害に関する警告表示を、たばこの包装スペースの30%以上にするよう義務づけられ、5年以内には、たばこ広告が原則禁止される。日本では「たばこ事業法」に基づいて4月からビル屋上や繁華街などで看板の新設を禁止、既設の看板は9月までに撤去する。たばこの箱には7月から「喫煙は肺がんの原因のひとつとなります」といった強い警告が表示される。また、全国に約60万台あるたばこ自動販売機すべてに、2008年4月をめどに、成人だけに発行するIC(集積回路)カードがないと買えない仕組みを導入する。
たばこ条約が最も重視するのは消費の抑制で、税率をアップして、たばこの価格を引き上げようと働きかけている。世界銀行の試算では、10%の値上げで4000万人が禁煙し、1000万人の死亡減になるという。現にカナダでは、1980年代に価格を2倍にしたら未成年の喫煙率が3分の1になった。いっぽう、たばこの値段は、日本は1箱300円前後で、欧米に比べると一番安い。たばこにかかる税金も、英仏は8割なのに日本は6割だ。日本が喫煙に甘い背景には、「たばこは個人の嗜好品であり消費削減を求めるべきでない」(02年の財政制度審議会基本方針)という発想が、その根っこにある。
たばこ条約による影響は大きい。JTは、18の工場のうち3月末で8工場を閉鎖する予定で、このため希望退職者を募集したところ、予想を上回る全社員の3分の1にあたる5796人が応募した。06年秋にはF1レースのスポンサーも辞める。受動を含めた喫煙が原因で毎年10万人が死亡し、1兆3000億円の医療費が支出されている(厚生労働省推計)という現実の前には、需要減はもはや食い止められそうにない。
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