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マラッカ海峡の海賊
2005.03.17 更新
 3月14日午後6時ごろ(現地時間)、マレーシア・ペナン島沖のマラッカ海峡で、インドネシア・バタム港から運搬船を曳航してミャンマー沖へ航行中の日本籍のタグボート「韋駄天」(323t、全長42.55m)が、自動小銃で武装した海賊に襲われ、船長ら3人(うち日本人2人)が拉致され、金品を奪われた。マレーシア・クアラルンプールにある国際海事局海賊情報センターが救難信号をキャッチしてわかったもので、16日現在、3人の安否は不明のままだ。

 マラッカ海峡は、マレー半島とインドネシア・スマトラ島の間にある海域で、インド洋と南シナ海を結ぶ航路だ。長さ約900km、幅70〜250km、平均の深さ25m。日本にとって、インド、中東、西ヨーロッパを結ぶ最短経路となるため、日本の海運会社全体で年間1万4000隻が航行する"海運の大動脈"。とりわけ中東から日本へ石油を運ぶタンカーの8割が通過する重要なシーレーン(海上交通路)でもある。しかし、浅瀬が多く、赤道直下の熱帯気候のため、突然のスコールで視界不良になることもある。

 海上保安庁の調べによると、マラッカ海峡で起きた海賊事件は、1996年から98年までは一ケタ台だったが、99年には16件と初めて二ケタ台になり、2000年には80件を記録した。その後は20件台で推移し、04年は45件を数えた。海賊が増えた背景には、アジアの通貨危機(97年)で困窮した沿岸漁民の存在がある。ここ数年は、乗組員を誘拐して身代金を要求したり、盗品を沿岸住民に分配するケースが目立つ。日本の関係船舶が海賊の被害を受けたのは、99年の39件が最高で、99年10月、約13億円相当のアルミ塊ごと貨物船が奪われ、のちに船名を変えて船が売りに出された「アロンドラ・レインボー号」事件は記憶に新しい。00年以降、31、10、16、12件で推移、04年は7件だった。

 海賊問題に詳しい日本財団海洋船舶部長で、『海のテロリズム』(PHP新書)の著者、山田吉彦氏は、今回の事件について「海賊事件は、マレーシア側は比較的警備が厳しく、おもにインドネシア側で発生していたが、スマトラ島沖地震以降、マレーシア側も警備が甘くなっている可能性がある」(3月15日付東京新聞)という。また、海賊問題がなかなか解決しない背景には、マラッカ海峡の海域は、沿岸国のいずれかの領海に属し、それぞれ軍事、警察権、税関が主権を主張しているうえ、宗教、民族、社会体制も異なり、協調関係が確立していないことがあるという。  海賊も従来の小遣い稼ぎ型から、国際的な犯罪シンジケートと結託して、奪った積み荷を武器や麻薬に替えるという犯罪集団に変貌しつつあり、「自由アチェ運動」(インドネシアの武装組織)が活動資金調達のために暗躍しているケースもあるといわれる。現に、米国では、「ジェマア・イスラミア」などテロ組織による海の自爆テロを警戒している。

 日本は、海賊対策として、マラッカ海峡を囲むシンガポール、インドネシア、マレーシアの3国をはじめ、東シナ海沿岸の計15カ国と連携し、海上警備機関が情報を共有し合い、合同訓練を実施したりしている。昨年11月には、「アジア海賊対策地域協力協定」を採択、今後とも関係各国相互協力を強化していく方針だ。また、ODA(政府開発援助)を利用して、06年度にもインドネシアに高速で小回りのきく中型巡視艇を無償で供与し、海賊対策に役立ててもらうことも検討(3月16日付朝日新聞)している。


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