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これからどうなる?−私はこう思う。
秒読みに入った量的緩和の解除
2006.02.16 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 2001年3月から約5年間にわたって続いている日銀の量的緩和政策が、いよいよ解除されそうな気配だ。日銀は量的緩和解除の条件のとして、(1)生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)の前年比が安定的(数カ月間継続)に(0%以上)なること、(2)それが再びマイナスにならない見通しがあること、(3)この二つの条件と、経済・物価情勢を考慮して総合的に判断する、の3つを掲げているが、その条件が今春には満たされる可能性が強いことを日銀要人が相次いで示唆しているからだ。

 06年2月2日に武藤敏郎副総裁が、松山市内の講演で「06年度にかけて条件が満たされ、量的緩和政策の枠組みを変更する可能性が高まってくる」と述べ、2月9日には福井俊彦総裁が、金融政策決定会合後の会見で、CPIの前年比が「1月分以降、はっきりした形でプラスになる」との見通しを示してた。

 かつて日銀の金融政策は、景気が過熱しそうなら公定歩合を引き上げ、下降局面では引き下げるといったように金利政策を基本としていた。したがってバブル崩壊後の金融政策は、景気テコ入れのための公定歩合引き下げの連続で、1995年までに公定歩合を0.5%にまで下げる超低金利政策が取られた。しかし、景気はいっこうに回復せず、99年には公定歩合を限りなくゼロに近づけるゼロ金利政策に踏み切った。2000年8月にはこれを解除したものの、景気はなお悪化をたどり、01年3月には金融不安が起こった。危機回避策と「ゼロ金利政策」に戻すことも選択肢にはあったが、ゼロ金利政策の下で市場機能が働かなかったことを経験した日銀は、裏技とも言うべき新たな金融政策を導入した。それが「量的緩和政策」である。

 具体的には、日銀が銀行など民間金融機関から債券や手形を買い入れ、その代金を銀行が日銀に保有する当座預金に積み上げ、資金を供給し、当座預金の残高に目標値を定めて金融を調節しようとする政策である。当初の目標値は5兆円だったが、漸次増額され、04年1月から30〜35兆円となっている。日銀当座預金には利子が付かない。そのため、銀行は債券や株式市場、企業や個人への融資などで資金運用を目指すようになる。その結果、債券や株式市場が上昇、消費や設備投資の増加につながる、というのが量的緩和政策の狙いである。

 量的緩和政策が、金融市場の安定に寄与し、実体経済に対してしっかりした下支え降下を発揮した点は評価されている。この政策の導入以降、銀行の収益は改善され、不良債権問題にもメドがつき金融システム危機は去った。いっぽう企業収益も好調を続け、現在の景気回復局面は、戦後最長のいざなぎ景気(57か月)に並ぶものになっている。

 ただ、ある日銀審議委員が「量的緩和はモルヒネだ」と形容したように、金利機能を犠牲にした緊急避難的な政策であることも事実だ。モルヒネには副作用があり、いつまでも打ち続けてよいものではない。量的緩和が続けば、またバブルを誘発する恐れもある。そのため昨年後半から、通常の金利政策への転換、つまり量的緩和政策解除の時期に関心が集まっていた。解除が間近い理由である。

さて、秒読みに入ったともいわれる量的緩和解除の時期だが、市場関係者の間には、4月28日に予定されている金融政策決定会合後に解除宣言が出されるとの見方が強まっている。日銀は毎年4月と10月に「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を発表しており、展望レポートで経済や物価の情勢に関する共通認識を示している。昨年10月のレポートでは、「今回の展望レポートでの経済・物価見通し(2005年度GDP対前年度比2.2%増、CPI0.1%増)が実現することを前提とすると、現在の金融政策の枠組みを変更する可能性は、2006年度にかけて高まっていく」と報告している。その見通しの実現が確認された段階で、解除宣言が出されると見られているのである。

 なお、量的緩和解除後の金利について同展望レポートは「極めて低い短期金利(基本的にゼロ金利)の水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくという順路をたどる」としている。

(山本祐輔=やまもと・ゆうすけ 経済ジャーナリスト、『日本の論点』スタッフライター)


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