*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
NHK改革をめぐる議論が活発化している。焦点は大きく2つ。1つは、かねてよりの懸案である受信料不払い問題だ。最近は支払いを再開する世帯が増えつつあるといわれるが、なお対象世帯の約3割が不払いの状態だ。竹中総務相の私的懇談会である「通信・放送の在り方に関する懇談会」の松原聡座長(東洋大学教授)によれば、仮に全世帯が支払った場合、受信料は現行の月額2340円から1800円まで下げられるという。逆にいえば、いま現在それだけ大きな不公平が存在していることになる。
この点について、自民党の「通信・放送産業高度化小委員会」(委員長・片山虎之助参議院自民党幹事長)は、罰則の導入による強制を主張。また政府の「規制改革・民間解放推進会議」(議長・宮内義彦オリックス会長)では、受信料を支払った世帯だけが視聴できる「スクランブル化」を提案した。だがNHKの橋本元一会長は、両案ともに消極的な姿勢を示している。罰則については「報道機関の精神にそぐわない」、スクランブル化については「情報格差を生む」というのがその理由だ。NHKは基本的に、従来どおり「国民にお願いする」というスタンスを崩していない。4月からは不払い者に対して民事訴訟を起こす予定だが、強制力は乏しいままだ。
これに対し、受信料制度そのものを見直す動きもある。「NHK民営化論」はその最たる例で、一時は竹中氏も積極的と報じられた。だが昨年末、小泉首相は「NHKは民営化しないという閣議決定がある」と述べて民営化を全面的に否定。さらに今年2月には、竹中氏に対してNHK国際放送の強化に向けた検討を指示した。内部改革の議論は、首相の一言で外部への発信戦略の議論にすり替わった感がある。これが、NHK改革の第2の焦点だ。
現在、NHKのテレビ国際放送「NHKワールドTV」は、ほぼ全世界に向けて発信されている。だが、多くは国内番組をそのまま流すだけで、二カ国語放送や字幕による「英語化率」は50%台にすぎない。一方、米CNNや英BBCはかねてより国際放送を充実させている。フランスや中国のテレビ局も国策として追随する動きがある。首相としては、この流れに遅れをとるまいという意図があるようだ。
ただし、そこで問題になるのが財源だ。NHKは「今後3年以内に英語化率100%を目指す」としているが、その番組制作費等として20億円以上の投入が必要という。しかし、海外から受信料を聴取するシステムはないため、現状では国内の受信料が振り分けられることになる。ただでさえ受信料収入が減少している中、この方針が視聴者の理解を得られるかは未知数だ。
これに対し、懇談会は大きく2つの提案を行った。1つはBBCがとっている手法で、国際放送にかぎってCMを導入するというものだ。だが橋本会長は「その考えはない」と消極的。民放連の日枝久会長(フジテレビ会長)も「受信料収入の範囲で完結してほしい」と警戒感を強めている。もう1つは、既存チャンネルの削減による経費節減だ。しかしこれについても、橋本会長は「役割に見合ったチャンネル数だ」と否定的だ。
結局のところ、NHKは現状維持のまま状況の打開を図ろうとしているように見える。懇談会としても、まだ「公共放送」の意味や目的を模索している最中のようだ。それはとりも直さず、わたしたち視聴者にとって、NHKはどう変わるべきなのか、変わるとどういうメリットがあるのか、何も変えてはならないという根幹の部分の議論が、欠落したままだということにならないか。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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