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論争を読み解くための重要語
景観権
2004.10.28 更新
 10月27日、住民の景観権が争われた「国立(くにたち)マンション訴訟」の控訴審判決が東京高裁であった。2年前の一審判決では、建設業者に対しマンションの20メートルを超える部分(14階建ての7階以上)の撤去を命じたことが話題になったが、今回の判決はこれをくつがえし、住民側の逆転敗訴となった。

 このマンションは、東京・国立市の通称「大学通り」に面して建設されたもの。大学通りには樹齢70年を超える美しい並木があり、これは住民が長年にわたって建築物の高さ制限など自主規制をすることで維持されてきた景観だった。住民は90年代後半から、高層マンションの建設がこの景観を損ねるとして、都市計画の決定者である東京都や国立市を相手取った行政訴訟を含め、いくつかの訴訟を起こしてきた。だが、マンションの部分撤去を命じた民事訴訟の一審判決を除いては、おおむね住民側の敗訴に終わっていた。

 原因のひとつに、「景観権」という概念のあいまいさがある。争点となった景観権とは「良好な景観を享受する権利」をいい、環境権とともに憲法で保障されていることになっている。しかし、何をもって景観権とするのかは、じつははっきりしていない。今回の判決でも、東京高裁は「景観が良好か否かの判断は個々人によって異なる」としたうえで、「行政が総合的な見地から施策を推進すべきで、一部の住民に権利・利益を認めれば、かえって調和のとれた景観形成の妨げになる」と述べている。

 これまで、景観権が争点となった裁判では、樹齢500年の巨木を国道工事から守った日光太郎杉訴訟(73年に東京高裁で確定)が知られるが、住民側勝訴となった例はまれだ。京都仏教会が京都ホテルの高層化に対して建築中止を求めた際も、仏教会側の敗訴に終わっている(94年)。

 ただ、時代は明らかに住民の景観を重視する傾向にある。今年6月には国会で景観法が成立、12月の施行後は、景観を損ねる高さやデザインの建築物に対して市町村が独自に規制を加えることができるようになる。現実には、法の施行を待つまでもなく、すでに多くの市町村が景観保護のための建築規制を行っている。かつて、高層ビルの建築をめぐるトラブルでは日照権が大きな争点となったが、今後は景観権を侵害しない建築物のあり方が模索される時代となるだろう。


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