4月1日、金融機関(銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協)が破綻したとき、政府が預金保険法に基づいて一定の預金額を保護する、いわゆるペイオフ(pay・off)制度が、10年ぶりに全面解禁となる。これで、凍結していた普通預金についても解禁される。例外的に保護されるのは、定期預金が元本1000万円までとその利息、普通預金は新設された無利息の決済性預金(公共料金の引き落としなど決済サービスに使え、預金者の指示でいつでも引き出せる=要求払いが可能)のみが全額保護される。今後、預金者は金融機関の経営状況を把握したり、万一の破綻に備えて預金の分散をはかるなど自己責任に基づいた対応が求められることになる。
ペイオフ制度は、1934年、米国で発足した預金保護制度が起源。日本には1970年代に導入された。金融機関から集めた預金保険料(預金者も金利の一部で負担している)によって、政府が、保険対象となる預金について、金融機関が破綻した際に一定限度を預金者に払い戻し、そのうえで金融機関を清算する仕組みだ。今回の全面解禁は、金融機関の不良債権処理がヤマを越え、日本の金融システムが安定を取り戻したことを世界にアピールする意味がある。
ペイオフは90年代後半に金融機関の破綻が相次いだとき、これ以上金融不安が広がらないようにという理由で凍結された。しかしその後、凍結の解禁はたびたび先送りされてきた。96年6月から2002年3月末までは特例措置として、定期預金と普通預金については全額を保護。02年4月からは、定期預金は凍結が解禁されたが、全額ではなく、元本1000万円までとその利息が保護の対象になった。普通預金は、当初01年4月に解禁されるはずだったのが1年延長され、次いで02年10月にさらに2年延長された。経営体力の劣る中小金融機関からの預金流出を恐れたためだ。
たとえば定期預金は1500万円、普通預金(決済用で無利息)50万円を預けていた人がいて、その金融機関が破綻するとどうなるか――今度のペイオフ全面解禁で保護されるのは、定期預金の1000万円分と利息および普通預金の50万円だけ。残りの定期預金500万円については、破綻した金融機関の債務や資産不足が確定するまで待たねばならず、それも4割ぐらいを差し引かれる可能性がある。また、今度の全面解禁では、口座の持ち主を判断するため、「名寄せ」が行われ、別名義の預金も一本化されることになった。
定期預金のペイオフ解禁が実施されたとき、とりあえず安全を確保するため、大量の資金が定期預金から普通預金へ移った。今度は、早くも全額保護される決済性預金へ移したり、個人向け国債(国が元本を保証)の購入などが目立っている。他方、金融機関もリスクが限定的な投資信託など新商品の売り込みに力を注いでいる。
金融財政論が専門の菊池英博・文京学院大学教授は、(1)日本は金融機関の数が米国の5割、ドイツの2割程度しかなく、一部の大手銀行に預金が集中すると金融の硬直化が進み、その銀行で大型の不良債権や損失が発生すると金融システムが動揺する、(2)預金者は預金の元本保証を求めて決済性預金に逃げ込んでおり、小規模の地域銀行では、要求払いのために安定した資金が極端に少なくなり、短時間に預金が流出するリスクが増大する――との点をあげ、「ペイオフは日本にそぐわない制度で、金融システムは新たな不安定さを増している」と、ペイオフ制度そのものに疑問を投げかけている(読売新聞3月10日付)。
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