5月11日、警視庁は、インターネットで知り合った18歳の少女を約3カ月監禁していた男(24)を逮捕した。この男は2003年、札幌地裁で、婦女暴行・傷害罪で懲役3年、保護観察付きで執行猶予5年の刑を受けていた。しかし法務省の保護観察所は、昨年3〜6月および同12〜今年4月までの7カ月間、青森県から東京都内に移転したことなど所在を把握しておらず、保護観察制度の欠陥が明るみに出た。
保護観察とは、犯罪や非行をした人を社会のなかで生活させながら、一定の約束事(遵守事項という)を守ることを義務づけて、助言、指導し、就職の援助や悩みの相談に乗り、その立ち直り(=更生)を助ける制度だ。保護観察の対象となるのは、(1)家庭裁判所の決定で保護観察に付された少年、(2)少年院から仮退院を許された少年、(3)刑務所からの仮出所者、(4)刑の執行を猶予され、その期間中、保護観察に付された人、(5)婦人補導院から仮退院を許された人――の5つの場合だ。
今回逮捕された男のような執行猶予者は、「善行の保持」と「転居や長期旅行の事前の届け出」が義務づけられていて、違反すれば執行猶予が取り消しになる。法務省の保護統計年報によると、03年末で保護観察中の執行猶予者数は1万5767人。このうち、再犯などで執行猶予を取り消された人は1779人で全体の11.2%を占める。さらに901人(5.7%)が行方不明になっていた。これに対し、仮出所者は、「素行不良者と交際しない」、「転居や長期旅行時の許可」など4項目が遵守事項となっている。
保護観察は、全国50カ所の地方裁判所ごとにある保護観察所で実施されている。現在、保護観察の対象者は約7万人いて、これを法務省保護局の保護観察官約600人と、法相の委嘱を受けたボランティア(無給。非常勤の国家公務員と位置づけられている)の保護司約5万人が担当している。しかし、現実には明らかに人員不足。保護司は月1回、面会することになっているが、今回の事件の犯人を担当した保護司は7人を担当していた。保護司はいずれもそれぞれの分野で豊富な人生経験を持ち、地域に根付いた人たちをあててはいるが、平均年齢は63.3歳、7割近くが60歳代で、昨年からは再任時は76歳未満という定年制が実施された。
犯罪者を更生させるという仕事は、じつは江戸時代の「人足寄場」が始まりとされる。『鬼平犯科帳』(池波正太郎著)で知られる火付け盗賊改め役、長谷川平蔵は、200年前に罪人に仕事を覚えさせ、自立させるため、石川島にこの人足寄場を作った。ちなみに、日本で初めての更生保護施設は、慈善篤志家の金原明善氏が明治21年(1888年)に設立した「静岡県出獄人保護会社」だとされている。その後1949年に「犯罪者予防更生法」が制定されるのを皮切りに、「更生緊急保護法」、「保護司法」、「執行猶予者保護観察法」が順次法制化され、今日の更生保護制度が確立された。
罪を犯したり、非行に走った人たちの社会復帰を助け、再犯防止につなげる保護観察制度だが、今回のような常習性をもつ人間に対しては限界があることがわかった。板倉宏・日大法科大学院教授(刑法)は「性犯罪など常習性がうかがわれる犯罪に保護観察は効果がない。執行猶予をつけずに実刑にすべきだった」という。また、藤本哲也・中央大教授(犯罪学)は、「保護観察は監視でない。保護司に強制的な権限はなく、本人の自覚に頼っており、対象者の行動を管理しきれないのが実情。保護監察官を増員して直接担当させないと、常習犯の更生は困難だ」と指摘する(いずれも東京新聞5月15日付)。
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