5月23日、東京高検は、公正取引委員会の刑事告発を受けて、国が発注する鋼鉄製の橋梁工事をめぐる談合事件で、談合組織の幹事社を務めていた横河ブリッジ(東京都港区)、石川島播磨重工業(千代田区)など8社を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で家宅捜索し、担当者の事情聴取を行った。談合に参加したのは、計47社にのぼり、業界ぐるみであることがわかった。鋼鉄製橋梁の市場規模は、約3500億円、1974年の石油ヤミカルテル(当時の市場規模で約6兆円)を除くと過去最大級だ。ちなみに刑事告発を受けた談合事件の摘発は、2003年7月の水道メーター入札談合事件以来のこと。
独禁法では、談合とは「入札における競争を回避すること」と規定されている。また刑法の「競争入札妨害罪」では、「公正なる価格を害する目的または不正の利益を得る目的で行う」とされている。公取委の告発によると、家宅捜索を受けた8社は、03〜04年度、談合組織に加わった橋梁メーカー39社などとともに、国土交通省の関東、東北、北陸の3地方整備局が発注する鋼橋上部工事で、あらかじめ受注予定者を決めて、他の業者は予定者が落札できるような価格で入札するよう合意、実行して、競争を実質的に制限した。両年度で166件、総額670億円分の競争入札が行われ、平均落札率は約94%だった。このうち談合に参加したメーカーが落札した工事件数は127件、全工事の77%で、契約金額は各年度の発注総額の9割を超える約605億円だった。
60年ごろに相次いで発足した「紅葉(こうよう)会」と「東(あずま)会」という2つの談合組織は、91年ごろ、紅葉会のメンバー会社から談合資料が流出して恐喝事件が起きてからはいったん両会とも解散したが、94年ごろにひそかに復活した。そのさい頭文字をとり、古参メーカー17社で構成する「K会」(旧紅葉会)と後発の30社で成る「A会」(旧東会)と名乗った。両会は毎年度末の総会で常任幹事1社と副幹事2社をそれぞれ選出し、幹事役の6社が過去5年の受注実績をもとに割り振る「ベンチマーク方式」というやり方で談合を繰り返していた。外部への発覚を警戒して、「ワーク」(会合)、「サクラ」(入札に参加するだけの業者)、「チャンピオン」(落札本命業者)といった隠語を使っていたが、昨年10月、公取委が立ち入り検査した際に談合ルールブックや連絡表などがあることが明らかになった。
公共工事をめぐる談合は後を絶たないが、鋼鉄製橋梁業界の場合、受注高が約82万トンを記録した98年度以降、コンクリートを鋼線で補強するPC橋が普及したこともあり、工事が年々減少、03年度は約48万トンまで落ち込んでいた。このため、談合組織の各社は「共存共栄」を図るため、持ちまわりによる高値受注の談合にのめり込んでいったとみられる。関係者は「自由競争を行えば、受注したい一心でたたき合いになってどの社ももたない。みんなで飯を食っていくためには談合が必要だった」と語るが、高値受注は国側、つまり税金が不必要な支出を強いられることになる。「国民生活に広く影響を及ぼす悪質で重大な事案」(杉浦総一郎・公取委第二特別審査長)というのは、そういうわけだ。
公取委は過去、ラップ・ヤミカルテル(91年11月)、シール入札談合(93年2月)、下水道メーター入札談合(97年2月)、防衛庁燃料入札談合(99年10月)など多くの談合事件を処理してきた。談合は排除勧告など行政措置で済ますのが通常だが、今回は、市場規模が大きいばかりか、役員が関与し、談合を破ったときには内輪で制裁措置があることなど、極めて強固な談合組織であることから刑事告発に踏み切った。なお、4月に独禁法が改正され、談合した企業に対する課徴金が大幅に引き上げ(大企業は製品売上高の10%、中小企業は4%)られるとともに、公取委の調査権限が強化され、来年1月から施行されることが決まったばかりだった。
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