5月30日、最高裁第1小法廷(泉徳治裁判長)は、核燃料サイクル開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団)の高速増殖炉「もんじゅ」(出力28万キロワット)の原子炉設置許可について、設置許可を無効とした2審の名古屋高裁金沢支部判決を破棄し、住民側の請求を棄却した。1985年9月の提訴から20年ぶりの逆転判決だ。
核燃料サイクルとは、原子炉で燃やした使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、新しい燃料として再度、原子炉で使うシステムだ。既存の原発(軽水炉)で燃やすのと、高速増殖炉で燃やす2通りの方法があり、軽水炉の場合は、プルトニウムをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工して燃やす。これをプルサーマルというが、再処理の際にできる高レベル放射性廃棄物の処理が課題とされている。
高速増殖炉は、消費される燃料より多くのプルトニウムを生み出し、ウラン資源の利用効率が飛躍的に高まることから、「夢の原子炉」といわれ、核燃料サイクル計画の中核に位置づけられている。一般に、高速増殖炉を含む原発は、実験炉、原型炉、実証炉、商用炉の順に開発されるが、福井県敦賀市につくられた「もんじゅ」は原型炉で、1995年12月に冷却剤のナトリウム漏れ事故を起こして以来、運転を停止していた。しかし02年12月には、国がこの事故を踏まえて原子炉の設置変更を許可し、04年1月に改造工事を認可、ことし2月には、国が地域振興に協力するという条件をとりつけて、福井県知事が工事を了解した。3月からは、2008年の運転再開に向けて改造工事が始まっている。
最高裁判決のポイントは、2審が「違法性あり」と指摘した接触防止の鉄製床の設置や、蒸気発生器電熱管の連鎖型破損などの問題点を、「現在の科学水準に照らしても、安全審査の過程に見過ごしがたい過誤、欠落はない」などと退けたことだ。これは、原子炉の設置許可に関する審査の対象を、安全対策全般でなく、原子炉と周辺施設の基本設計に限定したうえで、その内容について、国に一定の裁量権を認めたものといえる。
「もんじゅ」の設置が許可されたのは83年5月で、同年9月には、周辺住民が危険だとして設置許可無効確認の行政訴訟と運転差し止めを求める民事訴訟を福井地裁に起こした。最初は原告の適格性をめぐって争われ、最高裁が92年9月、適格と認めて地裁に審理を差し戻した。2000年3月、地裁は両訴訟の請求を棄却し、03年1月、高裁金沢支部が設置許可無効の判決をしたため国が上告していた。
今回の国の逆転勝訴について、行政法が専門の高木光・学習院法科大学院教授は「審査側に幅広い裁量を認めるなど、行政に有利な理論を用いているのではないかという疑問も残る。行政側の完勝だが、巨大プロジェクトは『法にかなう』だけでなく、『理にかない、情にかなう』ものでなければならない。この判決で、もんじゅを推進する側の社会的責任は、より重くなったというべきだろう」と注文をつけている(5月31日付、読売新聞)。
いっぽう、電力業界はこの判決自体を評価するものの、これを追い風に一段と高速増殖炉の開発が進展するという状況にはない。まだ発電プラントとしての実用化や信頼性が確立されていないばかりか、経費が建設費を含めて1兆円超と高く、電力自由化とあいまって開発意欲が減退しているからだ。政府の原子力長期計画では、高速増殖炉は「将来の主流」から「選択肢のひとつ」に後退し、実用化のめどは2030年から2050年ごろと先送りされた。
各国をみると、高速増殖炉についてはコスト高やプルトニウムの各兵器転用が可能なことから、相次いで撤退している。ちなみに米国とドイツは原型炉の建設計画を中止(米国77年、ドイツ91年)、フランスは実証炉を廃炉(98年)、英国は単独開発を断念(94年)した。ただし、京都議定書によるCO2削減義務や途上国における電力需要の急増から、既存の原発の需要は世界的に高まっている。
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