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論争を読み解くための重要語
上場廃止基準見直し
2005.06.16 更新
 6月13日、東京証券取引所(以下、東証)は、金融庁が求めていた、企業の上場審査などを行う自主規制機能の分離や、粉飾決算など有価証券報告書の重大な虚偽記載があったときには上場を廃止するといった基準の見直しについて、拒否する報告書を提出した。東証は市場規律を優先する立場を明らかにしたもので、金融庁と対決する姿勢を鮮明にした。これに対して大阪証券取引所は、金融庁の要求通り、経営再建を目指す企業の上場維持を図るという対照的な報告書を提出した。

 証券取引所は、株式売買の公正さを保ち、投資家を保護するため、証券取引法に基づいて取引所が自主的に行う規制・監視機能を持っている。具体的には、(1)証券会社の財務や営業体制の監督、(2)相場操縦など違法な売買の監視、(3)上場企業が公表する情報の内容確認や適時開示の徹底、上場廃止の審査、(4)新たに上場する企業の審査――などだ。

 東証は、今年度中にも東京市場へ自社株を上場する方針で、金融庁が見直しを要求したのは、一般の上場企業と同じ立場になる東証が、今後公正な市場の審判役を続けられるのか、という論理からだ。しかし東証では、すでに2001年11月、自主規制機能の透明性を高めるため、取締役会の諮問機関として「自主規制委員会」を設置し、さらに、昨年6月、委員の過半数を証券業界とは縁の薄い公益委員と入れ替えた。だが、金融庁は、あくまで自主規制機能の分離などを求め、東証は、自主規制と市場運営は不可分だとして、新たに委員会や最高規制責任者の権限強化などでチェック体制を拡充すると回答して応じなかった。

 金融庁が上場基準の見直しを求めた直接のきっかけは、産業再生機構の支援を受けて再建中のカネボウについて、新経営陣が粉飾決算を自主的に公表したのにもかかわらず、東証がさる5月13日付で上場廃止を決めたことにあった。金融庁が、カネボウのような再建途上にあるケースでは上場廃止を猶予すべきだと主張したのに対し、東証が提出した報告書では、「虚偽記載の重大性以外の事情に配慮することは市場に対する信頼性を著しく傷つける」として上場廃止基準は見直さないが、経営再建中の企業の早期再上場を容易にする基準を緩和(2年以上かかるのを短縮)するとの表現にとどめた。理由は、過去に上場廃止処分を受けた企業の投資家が不公平感を抱きかねないからだ。

 東証は、7月にも社外の識者で構成する特別委員会をつくり、自主規制のあり方を改めて議論することにしている。だが、今回の金融庁との対決から、自らの上場については来年度に延期することを検討し始めた。ただ、上場廃止基準で東証と大証で差ができれば、東証銘柄2297(5月末現在)のうち大証と重複して上場する707の企業では、再審査制度の実現によっては、大証だけで売買が成立する銘柄が出てくることになり、今後のことを考えると関係者はいちように戸惑いをみせているといわれる。

 では、海外ではどうか。ロンドン証券取引所が、自主規制機能を金融庁にあたる金融サービス機構に移し、ニューヨーク証券取引所も分社化を検討している。商法が専門の野村修也・中央大法科大学院教授は、「東証は、再生中の企業が上場廃止で受ける打撃を考慮し、一歩踏み込んだ判断をすべきだった。上場廃止基準を時代に適合した形に改めるのが望ましい。国策である産業再生を後押しする新たなルール作りが必要」と語っている(読売新聞6月14日付)。



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