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論争を読み解くための重要語
風説の流布
2006.01.19 更新
 1月16日、東京地検特捜部と証券取引等監視委員会は、インターネット関連企業「ライブドア」(堀江貴文社長)の子会社が、企業買収をめぐり、株価をつり上げる目的で虚偽の事実を公表したり、利益を水増しした決算発表をした証券取引法違反(風説の流布・偽計)の疑いで、港区のライブドア本社や自宅などを家宅捜索し、多数の捜査資料を押収した。近く、堀江社長らから事情聴取し、容疑の完全解明を目指す。今回の強制捜査の進展によっては堀江社長の辞任や、昨年末に入会したばかりの日本経団連からの除名といった事態も予想される。

 証券取引法158条は、有価証券を有利に売買したり、相場を変動させたりする目的で、裏付けのない不確定な情報(風説)を流すことや、虚偽の事実で投資家などをあざむく(偽計)行為を禁じている。違反すれば、5年以下の懲役か、500万円以下の罰金、またはその両方が科される。法人の場合の罰金は5億円以下。

 地検特捜部の調べによると、ライブドアの子会社「バリュークリックジャパン」(現在はライブドアマーケティング)は、2004年10月、「マネーライフ」社を完全子会社化すると発表し、11月には売上高や経常利益などを水増しして、経営状況を良く見せかけた決算を公表した。しかし、マネーライフ社すでに6月にはライブドアの支配下にあり、この虚偽の発表によって、バリュー社は自社の株価を高騰させ、株売買で利益を得やすくした。このときの買収は、05年1月、ライブドアの支配下にありマネー社株を100%保有する「VLMA2号投資事業組合」とバリュー社が株式を交換するかたちで行われ、この取引でライブドアは数億円の利益を得ていた。

 ライブドアは、発行株式を分割し、1投資単位あたりの価格を下げる「株式分割」の金融手法を駆使し、分割直後に株価が一時急騰することを利用、時価総額を拡大させ、資金調達を容易にして企業買収を重ねてきた。また、自社株を新規に発行し、これを対価に相手先企業の株式を取得する「株式交換」によって、高い自社株だと交換比率で優位に立つことを利用、多額の現金を用意せずに買収を行ってきた。今回のバリュー社も04年11月に株式を100分割すると発表し、このため株価は2カ月弱で45倍の8万500円にまで上昇していた。

 堀江社長は、ニッポン放送株を東京証券市場の時間外取引で大量取得したように、法律の抜け穴をつくやり方で積極的に企業の買収をすることによって業績を上げてきた。しかし、今回の強制捜査により、その背景には不透明な経理操作や違法スレスレの錬金術的な手法があったことが明らかになりそうだ。ライブドア自体も関連企業の利益を付け替える粉飾決算をしていた疑いも出ており、今後の捜査の焦点はこうした市場ルールを逸脱したライブドア商法の実態解明に移るものとみられる。

 ライブドアの証券取引法違反容疑について、経済アナリストの森永卓郎氏は、「ライブドアはIT関連事業といわれているが、実態は投資ファンド。堀江社長は、企業は株主の所有物、と強調して買収などを進めてきたが、マネーゲーム的手法は許されない」と批判(読売新聞1月17日付)。また、土本武司白鴎大法科大学院教授(元検事)は「東京地検は地道な基礎捜査を進め、十分に検討したうえで家宅捜索に踏み切ったはずだ。風説の流布は軽い刑ではなく、公正な証券取引を実現するうえで立件する意義は大きい」と指摘(東京新聞1月17日付)している。



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