二〇〇三年秋には校長予定者として東大名誉教授の伊豆山健夫氏を迎え、「建学の精神」を次の五項目とした。 (1)高潔で明朗濶達な人材の育成 (2)基礎学力の徹底した修得 (3)健全な身体、強靭な意志の涵養 (4)学問の楽しさを知る教養豊かな人材の育成 (5)日本の伝統・文化に立脚し、国際社会で活躍できる人材の育成 これらの理想を実現するためには、全寮制であることが不可欠であり、したがって、寮を全人格教育の拠点とすることにこの学校の最大の特徴を持たせようと思っている。当然、これまでの寄宿舎的寮と性格が大きく異なるため、これを「ハウス」と呼ぶ。教員の資格を持ったベテランの先生方(ハウスマスター)が家族も含め同じ棟に住み、起居を共にし、親代わりとして四六時中生徒に目配りを怠らない。 いずれにせよ少子化の時代である。ややもすれば過保護に走りがちな親の下で育ってきた少年が、親元を離れ同年輩の仲間と共同生活をする。初めは辛いかもしれないが、良い指導を受けることで自分の行動について節度や忍耐、主体性や奉仕の重要性を覚えることになる。換言すれば、これが社会性ということであって、世に出てリーダーたるべき素質の最も大切な要素に違いない。 自由と規律の均衡のとれた生活習慣は早く身につけるに越したことはない。ハウス内での交流は縦(異学年)と横(同学年)の拡がりがあって楽しいはずだ。現代っ子であることを慮(おもんぱか)って全員個室の形式を採るものの、決して生徒が部屋に閉じこもることのないよう、中心に大きな交流スペースを用意した。 次に、我々が重視しているポイントに「基礎学力の徹底した修得」がある。何も目新しくないと言われそうであるが、それだけに重要な鉄則だ。昔から洋の東西を問わず「教育とは各個人の持つポテンシャルを最大限に引き出すこと」と定義されている。どうしたら生徒一人ひとりの能力を開花させ得るのか。ここに基礎学力の修得の重要性がある。 「読み・書き・そろばん」といわれるが、表現力を養う上での国語、論理的思考を磨く数学、さらには世界共通語となった感のある英語などを基礎と見なし、早い時期に効率的かつ徹底的に詰め込む。ピアノを練習するときの指練習、野球の場合の走り込み、絵を勉強する際のデッサンのようなものだ。 いまの教育はこの点で間口を不必要に広げている観がある。いまだに「詰め込み」か「ゆとり教育」か、といった議論がなされるが、これは元来二者択一で考えるべき問題ではない。個々の能力を引き出すために必要な余裕、すなわち「ゆとり」を早く持てるように、初めに基礎学力を効率よく「詰め込む」べきなのだ。 このようにして学問の楽しさを知る入口まで来ればしめたものである。文系・理系を問わず幅広く科目を履修して豊かな教養を身につけるベースとする。ある科目で特に群を抜いた能力を示す生徒には大学レベルの発展的学習が可能となる環境を作る予定だ。また、外部の企業や研究機構との連携を通じ、社会の第一線で活躍する外部講師を活用するなど「生きた学問」に触れる機会を多くしたいと願っている。
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