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論 点 「新型学校は成功するか」 2005年版
新時代のリーダーを育成するため、経済界が創る中高一貫校の設計図
[教育改革についての基礎知識] >>>

いそべ・かつ
磯部 克 ((財)海陽学園設立準備財団理事(事務局長))
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▼対論あり

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日本の文化を身につけてこそ評価される
 さて、これからのリーダーたちは世界的規模で活躍することになるだろう。共通語としての英語をしっかり身につけることは言うをまたない。それにも増して肝要なのは、日本の伝統や文化を深く理解し、心身の糧とすることである。自国に対する敬愛と衿持(きょうじ)があってはじめて世界に存在する多様な価値観を理解でき、また、相手も敬意を払ってくれるものだ。六年間の一貫教育はこの点でも有利である。全員に古文や漢文を履修させて、古典に親しむための素養を作ることや、自国の歴史を深く、かつ、系統的に学習することを可能にするからだ。
 愛知県東三河の一三万平方メートル(四万坪)に展開する敷地の中で、のびのびと育ってくれるような生徒に全国から来てほしい。荒削りでも潜在的能力のある生徒だ。どのような選考方法とするかは検討中だが、受験勉強の成果を見るのではなく、本人に内在する可能性を見抜けるよう手間ひまをかけたい。
 六年間の生活を終えれば大学受験ということになろうが、大学進学実績そのものを目的とはしない。しかし、結果として生徒が行きたいと思う進路へ進めるだけの実力を身につけさせる。東大へ入る生徒ももちろんいるだろうが、海外の大学、例えばオックスフォードやプリンストンに受かっても何の不思議もない。これらの大学は筆記試験にあまり重きをおかず、本人の過去の活動の実績や人格的バランス、表現力や論理性といったものを総合的に評価するからだ。独立行政法人化によって日本の大学もこのような方向に進むことは必定だ。そうなったらそうなったで本校の生徒はますます有利ということになろう。


保護者は多様な選択肢を求めている
 ここまで、海陽学園設立の背景と我々が現在持っている構想を並べてきた。要するに「こういう私立学校があっても良いではないか」というのが根底に横たわる我々の気持ちである。この学校ができたからといって、日本の教育界が大きく揺らぐものでも変わるものでもあるまい。
 しかし、二一世紀が始まったこの時点で、いまだに選択幅の狭い教育界のあり方に一石を投ずる意義は決して小さくない、と自負している。統計を眺めても、全国の中学生全体に占める私立中学生の数は二〇〇二年で五・九九パーセントと低いものの、中学生の全体数が減少するなかで一貫して伸び続けている。ブームといわれている中高一貫校の誕生の多さを考え併せれば、中学進学段階での多様な選択肢をいかに保護者が求めているかわかる。
 「福翁百話」の中で福沢諭吉は教育の目的についてこう述べている。
 「教育の功能は唯天然に備はる能力の発生を助けて好(よ)き方向に導きその達すべき処にまで達せしむるに在るのみ。(中略)様々に培養して外より来る害物を防ぎその持前に応じてそれぞれの品格を維持せしむる」
 我々の建学の精神を要約すると、こうなるのかもしれない。先人の賛同を得た心地がして意を強くしている。


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推薦図書
『福翁百話』
〈福澤諭吉著作集11〉福沢諭吉(慶応義塾大学出版会)
『自由と自律』
池田潔(岩波新書)



議論に勝つ常識
2005年版
[教育改革についての基礎知識]
競争原理の導入は教育の質を高めるか?



論 点 「新型学校は成功するか」 2005年版

対論!もう1つの主張
学校はサービス業。株式会社立中学校は消費者に上質の教育を提供する
鳥海十児(朝日学園代表取締役社長)


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関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

(2004年)小中一貫校の構想は変われない公立学校を変える経営論的試みである
若月秀夫(品川区教育委員会教育長)
(2004年)六・三制を小中一貫=四・三・二制に変えよという根拠の大いなる稀薄
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(2004年)日本人の心を持つ国際人の育成――わが英語重視学校の二〇年先を見よ!
清水聖義(太田市長)
(2004年)英語教育の重視が日本人の教養をさらに低下させるのはまず間違いない
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(1997年)対処療法的な中高一貫教育はまったく無意味。まず学制改革に着手せよ
麻生 誠(放送大学教授・大阪大学名誉教授)



personal data

いそべ・かつ
磯部 克

1938年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。62年、日本碍子(現・日本ガイシ)に入社。米国法人・欧州法人などの代表を歴任し、97年、副社長に就任。03年退任、現在顧問。その間、中部経済同友会代表幹事、中京大学大学院客員教授(経営戦略論)も務め、中部地区を代表する経済人として知られる。その手腕が高く評価され、トヨタ・中部電力・JR東海の3社が出資して05年に開校する中高一貫校・海陽学園の設立準備財団事務局長として実務を統括する。




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