*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
景気の回復が喧伝されている昨今だが、1年間の自殺者が3万人を超える年が7年間も続いているのが日本社会の現実である。2005年の統計はいまだ出ていないが、おそらく8年連続となるのは確実だろう。
『日本の論点2006』でも高橋祥友氏が指摘しているように(論点85)、自殺者の急増の背景には「うつ病」という影が大きな要因として横たわっている。
自殺の原因調査によると(2004年)、1位は「健康問題」で、1万4786人、次が「経済的要因」で7314名といずれも大きな比率を占めている。この「健康問題」の中にはかなり高い比率でうつ病患者のいることが推定されるが、もう一つの「経済的要因」の中に潜むうつ病は見逃せない。
もともとうつ病の病理に立ち返って考えてみると、うつ病はセロトニンやノルアドレナリンなど脳内神経伝達物質のバランスの乱れが引き起こす病気である。この乱れを引き起こすのは、強度のストレスだと考えられている。
人間にとってストレスというと、仕事のプレッシャーや対人関係などがすぐに思い浮かぶが、じつは経済的な窮迫こそが大きなストレスの大きな原因となることが多い。先に挙げた自殺の原因の「経済的要因」の内訳を見ると、「負債」「生活苦」「事業不振」「失業」「就職の失敗」「倒産」という項目が挙がってくる。どれも見事なストレス要因である。しかも、ここ数年増えることがあっても減ることはないと思われる事象ばかりだ。
格差社会を実感する人が増えているのは、各種の世論調査で明らかだが、この実感こそストレスというわずして何というべきだろうか。就学援助を受けなければ、わが子に義務教育すら受けさせられない親にとって、生活そのものがストレスではないか。
自殺の統計はあっても、うつ病に関する統計はない。「厚生労働統計一覧」などから推計しているにすぎないが、1999年のうつ病を含む気分障害の治療を受けている患者数は44万1000人。これが2002年には71万1000人に増加しているとする説もある。
うつ病に関する統計資料を整備し、その要因となるストレスを分析すると、「小泉改革」がもたらした社会のもう一つの姿が浮かび上がってくることになるはずだ。
(百足光生 ももたり・みつお=著述業、『日本の論点』スタッフライター)
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