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会社法が義務づける「内部統制」とは
2006.05.04 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 5月1日、「会社法」が施行された。会社のあり方を規定していた商法第二編を抜き出し、有限会社法などと一本化したうえで大幅に変更した法律だ。条文は1000近くに及ぶ。これによって、会社の設立と運営の基本的な考え方が大きく変わることになる。

 この改変は、経済界からの要請を集大成したものだ。国際競争に打ち勝つためには、企業の体質を強化していく必要があるのに、従来の商法は画一的な規制を旨としていて、むしろ“足枷”となっていたというわけだ。そこで規制を緩和し、経営の自由度とスピードを増すことに主眼が置かれた。最大の特徴は、取締役会の権限とともに、株主のチェック機能を強化している点である。

 なかでも今後、間違いなくキーワードになりそうなのが「内部統制」だ。もともとは会計監査用語で、経営者の管理体制のことを指す。これについては、従来から、外部の監査人が財務諸表と合わせてチェックすることになっていた。だが西武鉄道やカネボウ、ライブドアなど、組織ぐるみで虚偽報告や粉飾を行う企業があとを絶たない。そこで会社法では、大企業(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)に対し、まず内部で統制することを求めている。対象となる企業は、今後直近に開かれる取締役会で統制システムの構築を決議しなければならなくなる。ひらたくいえば、経営者自らが法令順守のためのチェック体制をつくるということだ。

 今年6月には、さらに厳しく内部統制を求める「金融商品取引法(投資サービス法)」が可決・成立する見通しだ(08年4月から適用の予定)。こちらは上場企業が対象で、財務諸表の信頼性の確保が目的だ。経営者は、有価証券報告書が適正である旨の確認書を首相宛に提出する義務を負う。また自社と連結子会社が財務諸表を適正に作成するための体制を整えていることを証明する「内部統制報告書」を毎年作成しなければならない。さらに、同報告書は監査人による監査も受けなければならない。作成を怠ったり、虚偽の報告をした場合には、経営者と法人、監査人に刑事罰が科せられる。

 内部統制のシステムを構築するためには、まず社内規定や個別日常的な業務手順をすべて洗い出す必要があるが、その際に求められるのが、これらを文書化し、誰が見ても評価できるようにすることだ。そのうえで、財務報告を歪める可能性のある部分を見つけ出し、対応・是正していく。つまり、あらゆる業務をガラス張りにするわけである。この作業に、膨大な人員の手間とコストがかかることは想像に難くない。だからといって、このシステム自体が利益を生むわけではないだけに、「どこまで徹底するか」という経営判断と、「なぜ必要なのか」という社員への啓蒙が欠かせない。

 金融商品取引法は、米国でエンロン事件などを契機としてつくられた「企業改革法(SOX法)」がモデルになっているため、「日本版SOX法」とも呼ばれる。ただ米国では、その厳しさに悲鳴をあげている企業が少なくないという。日本企業にとっても大きな負担となりそうだ。

(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)


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