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これからどうなる?−私はこう思う。
米軍基地移設、沖縄は抵抗をつづけるか
2006.06.16 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 5月30日、在日米軍再編に関する基本方針が閣議決定された。その目玉のひとつである沖縄普天間基地の移設について、新聞報道によれば、政府側が地元の頭ごしにアメリカと交渉して決めてしまったことに対し、沖縄県は怒っているという。要するに、沖縄県はまだ納得しておらず、今後、反基地派の抗議行動が激しくなり、交渉の難航が予想されるというのだ。はたしてそうだろうか。

 10月以降、普天間移設基地建設計画の協議機関が発足、そこで具体的に話し合われることになっているが、沖縄県の副知事は、「基本方針は容認できない。したがって協議機関には参加できない」旨の発言をした。これに対し、防衛庁は楽観的な見方をしている。県側が、いろいろ主張したところで、最後は参加してくるだろうとみているからだ。

 沖縄県側の主張は、1999年のSACO合意で決まった辺野古沖の埋め立て案が基本で、それがだめなら県外移設だった。したがって、額賀防衛庁長官と島袋名護市長とのあいだで、キャンプ・シュワブ沿岸で合意したときも、稲嶺知事は「尊重はするが、これまでのスタンスを変えない」と述べた。しかし、その1カ月後、「一転、政府と県合意」と報道された。このとき稲嶺知事は、「シュワブ沿岸移設に対しては、それでいいとしたが、県としては、暫定へリポート基地建設を主張している」と、記者会見で答えた。政府案はV字形滑走路建設なので、まだ隔たりがあるというのだ。しかし、「辺野古沖」から「シュワブ沿岸容認」と変化している。

 防衛庁幹部は、「地元との話し合いなしに、基本方針が決定されたというが、シュワブ沿岸容認も、ヘリポート基地建設も、知事側が言い出したこと。県議会の承認も得ていない。稲嶺知事自身が地元に対し根回しをしていない」と批判する。知事側は駆け引きとして抵抗しているにすぎないと、この幹部はいいたいのだろう。

 知事側が駆け引きをするのは、地域振興策がより高額になってほしいからだ。移設先に対してだけでなく、返還される基地の跡地利用についても、国の援助を期待している(しかし、跡地利用に対し、国の助成金が出た前例はない)。基地建設計画の協議機関では、新たな振興策についても話し合われる。すでに額賀防衛庁長官は「手厚い振興策を」と発言している。それに加え、新基地建設に地元業者が全面的に参加できれば、沖縄県は経済的に大いに潤う。

 じつをいうと、沖縄では11月に知事選があるが、稲嶺知事は立候補しないと明言している。つまり、それ以後は新知事が政府との交渉にあたることになるわけで、誰が新知事に選ばれるかで様相は違ってくる。反基地派の候補者が選ばれれば、協議機関での交渉は当然のこと、難航するだろうが、その可能性は低いように思われる。

 理由の第一は、なんといっても経済事情である。ちなみに沖縄県の05年度の完全失業率は7.9%でワースト(全国平均4.4%)だった。これを少しでも改善しなければならない。

 もうひとつ、海兵隊8000人、および海兵隊司令部がグアムへ移動し、嘉手納基地より南にある4基地が返還される。さらに、普天間では483ヘクタールもあった基地面積が、新基地では180ヘクタールと、大幅に縮小される。現在は米軍基地の75%が沖縄に集中しているが、4基地と読谷補助飛行場の返還によって、70%に減少することになる。多少とはいえ、基地の負担は間違いなく軽減されると、沖縄県民の間では受け止められているのである。

(福沢一郎 ふくざわ・いちろう=『日本の論点』スタッフ・ライター)


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96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

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