*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
消費者金融の金利が、大幅に引き下げられそうだ。自民党の金融調査会と「貸金業制度等に関する小委員会」は先ごろ、出資法に定められた上限金利29.2%を、利息制限法の定める上限金利20%にまで引き下げる方向で大筋合意した。貸金業者の多くは、この両法の間のいわゆる「グレーゾーン金利」で貸し出しを行ってきたが、それが廃止される見通しだ。早ければ今秋の臨時国会に法案が提出される。
この背景には、膨大な数にのぼる多重債務者の存在がある。現在、消費者金融の利用者は年間約2000万人。そのうち多重債務者は約200万人、さらに自己破産者は約20万人にのぼるとみられている。また、生活苦による自殺者は年間約8000人だ。こうした状況に加え、今年4月には業界大手アイフルによる違法取り立てが表面化し、貸金業に対する規制強化の気運が一気に高まった。
多重債務者の多くは、最初から複数社と契約しているわけではない。1社への返済が高金利ゆえに困難になり、過酷な取り立てから逃れるために他社から借りて充当する。それを繰り返すことで、借金が雪だるま式に膨れ上がっていく。そこで、金利を下げれば返済の負担が軽くなり、結果として多重債務者が減るというロジックだ。
だが、そう一筋縄にはいかないという見方もある。金利はリスクに比例する。その上限が引き下げられれば、貸金業者は需要者の審査基準を厳しくせざるを得ない。大手の場合、従来から4割程度は融資を断ってきたという。この割合が、より高くなるのは必至だ。また中小の業者の中には、廃業を余儀なくされるところも出てくるといわれている。一方で、借り手の需要がなくなるわけではない。貸金業者に断られれば、法外な金利のヤミ金融に頼らざるを得ない人も現れるだろう。つまり、金利の引き下げはかえってヤミ金被害を助長しかねない、というわけだ。
ここで同時に注目すべきは、需要者の実情と意識である。国民生活センターが今年3月に発表した調査によると、多重債務者が最初に借り入れをした理由は「収入の減少」が25.6%ともっとも多いが、「ギャンブル費」「遊興費」が合わせて21.5%に達している(複数回答)。また返済の見込みについては、「貸付の金利はわかっていたが、返せると思った」が51.5%ともっとも多く、「貸付の金利はよくわからなかった」が32.1%、「貸付の金利が高いので迷ったが、他で借りることができなかった」が26.3%と続く(複数回答)。
出資法の上限金利である29.2%という数字は、日歩に換算すれば0.08%である。10万円を借りて10日後に返せば、利息は800円だ。しかし、仮に3年を経過すれば、複利計算で元利合わせて約216%、5年後には約360%に膨れ上がる。その引き下げの是非もさることながら、需要者に対するこうした認識の周知徹底が急務だろう。また、低所得者がやむにやまれぬ事情で借り入れを必要としている場合には、もはや上限金利の問題とはいえない。貸金業者に頼らなくても済むよう、生活保護制度の拡充など、公的なセーフティネットの整備による救済が必要だ。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
|