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論争を読み解くための重要語
北朝鮮の核実験
2005.05.12 更新
 北朝鮮の核開発が現実味を帯びてきた。5月9日、韓国の有力紙である「朝鮮日報」が、北朝鮮が6月にも核実験を行う可能性が高い、と報じた。米国防総省の当局者が明らかにしたもので、それによると、3年前から偵察衛星で監視を続けてきた結果、北朝鮮の咸鏡北道吉州付近で掘り出された土砂量やコンクリートの搬入、クレーンやトラックの移動状況などから、地下トンネルの深さを推定したところ、核実験用トンネル内に核爆弾が装着された可能性があるというもの。6日の米国紙(ニューヨークタイムズ)も同じ情報を報じた。

 2003年1月、北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)から脱退を宣言。次いで同年4月には米国と中国に核保有を明らかにし、ことしの2月10日にも核兵器保有を発表した。さらに4月18日、韓国外交通商省が黒鉛減速炉の稼働停止を確認したと公表し、核爆弾製造につながるプルトニウムの抽出が行われているのではないかという懸念が一挙に高まった。それを裏づける格好で、エルバラダイ・IAEA(国際原子力機関)事務局長は5月8日、少なくともプルトニウム型の核爆弾5、6個を持っている可能性が高いとの見方を明らかにした。

 ブッシュ米大統領は、4月28日の記者会見で、北朝鮮の核について「運搬能力を懸念している」と語り、長距離ミサイルへの核搭載能力を得たのではないかとの見方を示した。そのうえで「金正日は危険人物だ。自国民を飢えさせ、巨大な収容所を持っている」と名指しで非難し、「すべての選択肢はわたしの机上にある」と強調、事態の展開次第では武力行使も辞さないとの構えを見せた。また、5月8日には訪問先のモスクワでプーチン・ロシア大統領と会談し、北朝鮮の核実験に懸念を共有していることを表明、核問題の解決のためには6カ国協議の枠組みが有効なことを確認しあった。

 5月2日、5年ごとのNPT再検討会議が国連本部で開かれ、米国はイランと北朝鮮を名指しして「NPTは史上最も深刻な試練に直面している」と警告、核不拡散体制の強化を最優先するよう求めた。これに対し、非同盟諸国からは核軍縮停滞への批判が相次いだ。日本は、北朝鮮に6カ国協議への無条件復帰を要求し、核軍縮から不拡散まで包括的な21項目の提案を行った。

 かりに北朝鮮が核実験を強行すれば、国連安保理事会における経済制裁討議は避けられず、国際的にも孤立化するのは必至だ。それでも核実験によって核保有国であることを証明しようとするのであれば、それが「体制の保証」につながると考えているからだ。いっぽう韓国では、北朝鮮の今回の行動は偵察衛星を意識した示威行動で、最後のカードだけにそう簡単には切れないはず、と分析している(産経新聞5月9日付)。

 こうしたなか、北朝鮮の労働党機関紙「労働新聞」は10日、「米国が核実験を行うかも知れないと騒いでいる」と紹介し、「ブッシュ集団はわが共和国をあくまでも『核の犯人』に仕立て、国連での集団的制裁の対象にし、圧殺しようとする本心を露骨に表している」と非難した。今回の核実験騒ぎは、北朝鮮流のいつもの"瀬戸際作戦"なのかどうか、動向が見逃せない。



関連論文

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私の主張
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(2000年)TMD導入と国産偵察衛星実現を考えるための基礎知識
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