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論 点 「専守防衛の範囲はどこまでか」 2004年版
新時代の防衛の論理――専守防衛の敵基地攻撃と先制攻撃は決定的に違う
[専守防衛についての基礎知識] >>>

いしば・しげる
石破 茂 (衆議院議員、防衛庁長官)
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▼対論あり

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国の独立と平和に殉じた隊員たち
 防衛庁・自衛隊は、平成一六年(二〇〇四年)七月に創設五〇周年を迎える。自衛隊の本来の任務は、自衛隊法第三条にあるように、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛する」ことにある。この半世紀、隊員たちは、まさに命がけの厳しい訓練に耐え、陸海空それぞれの持ち場でその任務を全うしてきた。また、台風や地震など災害時の救急救援出動にも黙々と従事してきた。その懸命な任務遂行のなかで職に殉じた隊員は、今日までに一七〇〇人を超える。
 防衛庁では、こうした殉職者を追悼し、顕彰するメモリアルゾーンとして、平成一三年秋から本庁舎敷地内の自衛隊殉職者慰霊碑を中心とする地区の整備を行ってきた。整備は平成一五年夏に完了し、同年九月一一日、披露行事を行うことができた。
 自衛隊員は入隊にあたって「事に臨んでは危険を顧みず、身を挺して国民の負託に応える」旨を宣誓する。志なかばで殉職された隊員の心中を思い、この尊い犠牲をけっして無駄にしてはならないと、このとき、あらためて心に誓ったのを記憶している。


自衛のための敵基地攻撃は先制攻撃ではない
 平成一四年一〇月、北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画の存在を認めた、と米国が公表して以来、これまでどこか他人事のことのように思っていた日本人も、核ミサイルや大量破壊兵器の脅威を深刻に受け止めるようになってきた。その不安心理からなのか、このところよく「専守防衛の日本は、一発目のミサイルが打ち込まれるまで何も反撃できないのか」との質問を受ける。これは専守防衛について、また自衛権の発動についての、大いなる誤解に基づいた質問といわなければならない。
 周知のように、日本は憲法の精神にのっとって専守防衛という守りに徹した防衛戦略をとってきた。しかし、核ミサイルの脅威に対して「一発目甘受」という方針を持ったことは、これまでに一度もないし、これからもあり得ない。「座して自滅を待つ」ような防衛方針が、憲法の予定するものとはとうてい考えられないからである。
 これまでの政府解釈では、自衛権を発動するには、次の三つの要件が必要とされてきた。
一、我が国に対する急迫不正の侵害があること
二、これを排除するために他の適当な手段がないこと
三、必要最小限の実力の行使にとどまるべきこと
 この三つの要件を満たせば、例えば、敵の誘導弾などによる攻撃を防御するのに、その基地を叩くことは、法理的には自衛の範囲に含まれ可能という解釈である。この解釈は昭和三一年(一九五六年)二月二九日の衆議院内閣委員会における鳩山一郎首相答弁(船田中防衛庁長官代読)で表明されている。
 次に問題になってくるのは、「わが国に対する急迫不正の武力攻撃」とはどの時点をもって判断するのか、ということである。
 昭和四五年以降、国会答弁で、武力攻撃の「恐れがある」というだけでは不十分であるが、実際に被害が発生した時点でもない。それは「着手した時点」である、という政府解釈がなされ、今日に至っている。
 この二つの政府解釈を、敵国のミサイル攻撃に即して考えてみると、理論上は「日本に向けてミサイルを発射せよ」という命令が下され、ミサイルを直立させ、さらに仮に液体燃料を使用するものであれば、その注入を始めた時点ということになるだろう。これが「急迫不正の侵害」を判断する一つの材料となり得るのである。
 他方、「どうも攻撃してくるらしい」という「恐れ」があるだけで敵ミサイル基地を攻撃すれば、それはいわゆる「先制攻撃」になってしまう。「敵基地攻撃」と「先制攻撃」――この二つは明らかに異なる概念なのである。
 なお、「敵基地攻撃」の前提として相手が「武力攻撃に着手した」と認定する場合も、そのときの国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、態様などによってさまざまな事情を個別的に判断する必要があるので、いちがいにはいえない面があることを付け加えておきたい。
 平成一五年三月、衆議院安全保障委員会で私が前述の二つの政府解釈を組み合わせた答弁をしたところ、「専守防衛を逸脱している」という批判が少なからずあった。私自身は、平成一一年三月の国会における、当時の野呂田芳成防衛庁長官の答弁と同じ内容を述べたのであり、専守防衛の範囲を超えた発言とは考えていない。私に加えられた批判は、「敵基地攻撃」と「先制攻撃」との相違を認識せず、両者を混同した議論であると言わざるを得ない。


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論 点 「専守防衛の範囲はどこまでか」 2004年版

対論!もう1つの主張
敵基地先制攻撃論は専守防衛の歴史的背景を考慮しない暴論である
前田哲男(東京国際大学教授)


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personal data

いしば・しげる
石破 茂

1957年、鳥取県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。86年、衆議院議員に全国最年少議員として初当選。現在5期目(03年10月現在)。農林水産統括政務次官、防衛統括政務次官、防衛庁副長官を経て、02年9月より防衛庁長官を務める。学生時代からディベートに強く、安全保障分野では政界きっての論客として知られる。著書に『職業政治の復権』、共著に『坐シテ死セズ』がある。



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