東京裁判の正当性は裁判中より大きな問題とされてきた。 裁判の冒頭手続において清瀬弁護人は、(1)東京裁判の目的はあくまでポツダム宣言に基づく戦争犯罪人の処罰であり、国際法に規定のない「平和に対する罪」などを裁く権限はない、(2)侵略戦争は国際法に定められた犯罪ではない、(3)国家の起こした戦争において個人の責任は問われない、などとして裁判そのものの不当性を申し立てたが、却下された。 インドのパル判事は判決の少数意見で、「平和に対する罪」などを法理論的に追及し、「東京裁判は戦勝国による儀式化された復讐である」として被告全員の無罪を主張した。さらに、非戦闘員の生命財産の無差別破壊が違法だとしたら、アメリカによる原子爆弾の使用こそがナチスのユダヤ人絶滅指令に似た唯一のケースであるとして、裁く者の手も汚れていることを鋭く指摘した。しかし、パル判事の少数意見書はウエッブ裁判長に拒否され、法廷では読み上げられなかった。 さらに五一年五月、アメリカ上院軍事外交合同委員会の席上、マッカーサー連合国軍最高司令官は「日本が戦争に突入した目的は、大部分が安全保障上の必要に迫られてのことだった」と証言し、侵略戦争でなく自衛戦争であったとの認識を述べた。 これらの見解は、その後のA級戦犯無罪論や、東京裁判否定論の根拠となり、自民党の政治家や保守系知識人の口からしばしば繰り返されて、時に舌禍事件を引き起こした。
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