今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ

論 点 「著作権保護をどう考えるか」 2006年版
時代に逆行する著作権法改正――過剰な保護は文化資産の共有をはばむ
[著作権についての基礎知識] >>>

とみた・みちお
富田倫生 (ジャーナリスト、「青空文庫」よびかけ人)
▼プロフィールを見る
▼対論あり

全2ページ|1p2p
普及が進むデジタルアーカイブ
 二〇〇五年(平成一七年)元旦、インターネットの電子図書館「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)は、著作権の保護期間延長に反対する立場を声明し、その意思を表すマークをトップページに掲げた。
 文化資産を電子化し、インターネット経由で公開する、デジタルアーカイブが育ちはじめている。そこに浮上した保護期間延長が実現すれば、アーカイブに収録できる作品は減り、その可能性が細る。筆者もその一員である、青空文庫呼びかけ人はそう考え、延長反対の声を上げた。
 青空文庫では、著作権の保護期間を終えた作家の作品が、二〇〇五年一〇月段階で、四九〇〇点以上公開されている。作品の入力、校正は、ボランティアで進めており、利用に対価は求めていない。アクセスは、国外からもある。晴眼者が画面で読むファイルを、視覚障碍者は音声に変換して聞いている。弱視者向けの拡大写本や、点字用データとしても使われている。商業利用も自由で、一〇〇円文庫や大活字文庫、風呂で読む本といった商品が、ここから生まれている。
 インターネットの電子図書館という青空文庫の「形態」は、パソコンが広く普及し、つながることではじめて可能になった。ただし、古典的な価値を認められた作品を、誰もが利用しやすくしておこうとするその「精神」は、著作権制度によって、あらかじめ私たちの社会に組み込まれていたものだ。


権利保護だけが著作権法の目的ではない
 著作権法が、何を通じて何を目指すかは、第一条の「目的」に掲げられている。
 法はまず、著作者の権利とこれに隣接する権利を定め、その保護を図る。加えて、著作物の公正な利用にも留意する。著作者の権利保護と、著作物を利用する側への配慮に共に意義を認め、両者をバランスさせて著作権法が目指すのは、「文化の発展に寄与すること」である。
 作品を生みだした人に権利を認めて保護すれば、著作者には作品で儲ける可能性が開ける。生活に追われることなく創作に専念することで、よりすぐれた作品を生み出すという、法の目的にかなった循環の形成を期待できる。ただし、作者が生物的な死を迎えれば、創作のエンジンもそこで、永遠にとまる。そうなった時点で考慮に入れるべきもう一つの要素を、著作権制度は想定している。
 人は過去の文化的な資産を糧とし、自らを育んではじめて、創作に至りうる。すぐれた作品を残した者もかつては、先人の用意した文化のゆりかごに抱かれた赤子だったはずだ。古い作品はまた、換骨奪胎されて、新しい作品として生まれ変わる可能性を秘めている。
 ならば、作者の死によって、権利の保護が創作への励ましとならなくなった段階で、創作の揺りかごである文化の大河から生まれた作品を、もう一度流れに戻し、誰もがたやすく作品に触れられるよう仕組んでおこう。作者の死後五〇年を経た段階で保護を打ち切り、以降は自由に複製を作り、インターネットでも公開できるようにしようとする著作権法の規定には、こうした期待がこめられている。


次のページへ

全2ページ|1p2p



論 点 「著作権保護をどう考えるか」 2006年版

対論!もう1つの主張
著作権がクリエーターを潤さず、TV局や業界を肥らせる不合理を糺す
穂口祐介(作曲家、アムバックス代表)


▲上へ
personal data

とみた・みちお
富田倫生

1952年、広島県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。編集プロダクション勤務を経て、科学技術関係のライターに。電子本に出会い、インターネット上の私設電子図書館「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)呼びかけ人となる。同文庫では著作権保護期間を過ぎた書物をボランティアが入力・校正し、無料配布している。著書に『パソコン創世記』『宇宙回廊 日本の挑戦』『電脳王 日電の行方』『青空のリスタート』『本の未来』『インターネット快適読書術』などがある。



▲上へ
Copyright Bungeishunju Ltd.