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論 点 「著作権保護をどう考えるか」 2006年版
著作権がクリエーターを潤さず、TV局や業界を肥らせる不合理を糺す
[著作権についての基礎知識] >>>

ほぐち・ゆうすけ
穂口祐介 (作曲家、アムバックス代表)
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▼対論あり

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テレビ局が日本の音楽を独占している
 音楽著作権を管理する社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が一年間に集める音楽著作権使用料は、毎年約一〇〇〇億円を超えている。作詞・作曲者、音楽出版社などの著作権者にかわって、著作権の利用許諾や使用料の徴収をおこなうのがJASRACの主な業務だが、では、そうした日本の音楽著作権者のうち、もっとも多くの著作物(楽曲)をもっているのは誰か? 
 読者の大多数は、有名な作詞家や作曲家をイメージするであろう。しかし答えは人間ではない。テレビ局! である。正確にいうと、テレビ局の子会社である。たとえばフジテレビ系列のフジパシフィック音楽出版という音楽出版社は、じつに約一二万曲の音楽著作権を保有している。
 一方、クリエーター個人では、もっとも多い作曲家で約二五〇〇曲、有名どころの平均で五〇〇曲程度。この差は尋常ではない。もちろん、フジテレビの子会社が作詞や作曲をすることはない。一二万曲分の著作権は、テレビのオンエアーを武器にした著作権契約によって、作詞・作曲家から獲得したものなのだ。著作権契約とは、音楽出版社が販売促進をおこなう見返りとして、原著作者と交わす著作権の部分譲渡契約である。
 フジだけではない。問題は、テレビメディアによる音楽著作権の独占である。
 TBSも傘下に音楽出版社の「日音」を擁し、約一〇万曲の著作権を保有している。以下、日本テレビ音楽(約一万五〇〇〇曲)、日本放送出版協会(約一万四〇〇〇曲)、テレビ朝日ミュージック(約一万三〇〇〇曲)、テレビ東京ミュージック(約一万三〇〇〇曲)など、キー局のすべてが軒並み子会社をつくって音楽著作権の争奪戦を展開している。その数、じつに約三〇万曲。現在、日本で流通している楽曲の半数を、テレビ局が独占しているとみていいだろう。
 いっぽう、テレビ局は著作権の大口使用者でもあるから、本来は放送した音楽著作使用料の全額を、作詞家・作曲家に支払う必要がある。しかし前述の著作権契約によって、自らも五〇パーセントの分配を受けられる権利者になれば、労せずして著作権使用料の削減が実現する。これがほんの少し著作権について学習すれば、誰でもすぐに思いつくカラクリである。
 実際、一九四〇年代にはアメリカの放送事業者たちが、まったく同じ発想でブロードキャスト・ミュージック社(BMI)を設立した。ところがアメリカの優れているところは、反トラスト法によってBMIをたちまち裁判所の監督下に置いたことである。今日では、BMIに対するアメリカ放送協会の影響力は、一〇パーセント以下と試算されている。これに対し、日本は野放しといわざるをえない。独占禁止法はあるが、テレビ系音楽出版社の談合による音楽著作権の搾取は放置されたままだ。日本の放送使用料はもともと世界水準の半額以下だから、その意味でテレビ局は二重に搾取しているといえる。


音楽環境を破壊するメディアの論理
 メディアによる著作権支配の影響は、作家への搾取だけに終わらない。だからこそ、アメリカの政府機関は厳重な監視を怠らないのだ。
 テレビ局は音楽著作権を保有すると、その楽曲を重点的に放送する。重点放送楽曲はヒットし、莫大な著作権収入をテレビ局にもたらすからだ。オンエアーの作品はたえず利益優先で決定され、自社の収入にならない海外の名曲や他社の作品は選ばれにくい。現に、この一〇年ほどで、局内の音楽担当者の自由な選曲機会は激減した。
 平成の子どもたちは、洗練されたサウンドも、卓越したボーカリストも知らない。子どもたちの音楽的感性を養おうと思えば、ケーブルテレビと契約して海外の音楽番組を見るしかない。 
 人間は誰でも、良い音楽が自然に流れる環境で生活すべきである。しかし、日本には選択の自由すらない。公共の電波を一部の企業家が独占し、自らの利益を最大化するためだけに、音楽を悪用しているからである。


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論 点 「著作権保護をどう考えるか」 2006年版

対論!もう1つの主張
時代に逆行する著作権法改正――過剰な保護は文化資産の共有をはばむ
富田倫生(ジャーナリスト、「青空文庫」よびかけ人)


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ほぐち・ゆうすけ
穂口祐介

1948年東京都生まれ。日本大学中退。往年の人気グループ キャンディーズの「春一番」をはじめ、70年代から80年代にかけての多数のヒット曲を作詞・作曲する。現在アムバックス・ミュージックゲート・グループ会長。日本作詞作曲家協会(J-scat)理事。社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)評議員。違法コピーや私的複製の制限、また音楽配信サービスの問題などでヒートアップしている音楽著作権問題に関し、曲づくりを担当するクリエーターの立場から発言している。



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