耐震強度偽装事件は、警視庁および神奈川、千葉両県警による合同捜査本部が木村建設の木村盛好社長ら関係者8人を逮捕、捜査は大詰めを迎えた。逮捕されたのは、藤田社長はじめ姉歯秀次元一級建築士(建築士法違反=名義貸し)、木村社長(建設業法違反=粉飾決算書類提出)ら。昨年12月、建築基準法違反(構造計算書偽造)で関係先約120カ所を家宅捜索して以来5カ月ぶりだ。いっぽう、これらの物件を販売したヒユーザー(破産手続き中)の小嶋進社長らについても、偽装と知りながら販売した詐欺と宅地建物取引業法違反容疑の立件を視野に捜査を進める。
藤田社長逮捕の直接の容疑は、2001年10月、約2700万円を増資したかのように装い、不正な登記をした疑い。国土交通省の局長通達によって、民間の指定確認検査機関になるには資本金は3000万円以上、また、2000平方メートル以上、1万平方メートル以内の物件を扱うには、5000万円の資本金にするよう義務づけられているからだった。このため同社は、業務拡大のために架空を含め計7回、約5700万円の増資を行った。しかし、実際には借りた資金で増資を行い、登記後にすぐ返却するという不正な登記だった。この結果、04年度の建築確認件数は約1万3000件で、大臣指定の民間指定確認検査機関17のなかでは3番目に多かった。今回の摘発により、同社は25日、5月末に指定確認検査業務を廃業することを明らかにした。
藤田容疑者が社長をつとめるイーホームズ社は、02年9月以降、姉歯元建築士による偽装物件98件のうち37件の建築確認を下ろしていたが、藤田社長は、昨年11〜12月、国会での参考人招致や国交省におけるヒアリングにおいて、自らの責任よりも、原因は建築確認システムにあるとの問題点を指摘していた。
逮捕まで5カ月を要し、しかも告発された容疑も建築基準法違反でなく、別件だったことが、今回の耐震偽装事件捜査の難しさを浮き彫りにさせた。事件を通じて明らかになったのは、規制緩和によって自治体から民間に委ねられた建築確認システムが形骸化し、それが構造計算書の偽造を見逃す温床になっていたことだからだ。98年の建築基準法改正で民間に開放されて以来、民間の建築確認は、01年度は全体の1割に過ぎなかったのが、04年度には初めて5割を占めるようになった。
この点について、ジャーナリストの魚住昭氏は、雑誌「現代」5月号の「追及!耐震偽装問題」のなかで、「偽装事件の背景には、バブル崩壊後に熾烈化した建築業界のコストダウン競争がある。しかし、それと同時に国交省が作り上げた建築確認システムの恐るべき空洞化があることも忘れてはならない。この空洞化を加速化させたのは、米国の市場開放圧力に促された規制緩和路線だった」と指摘、まがりなりにも危険建造物を防ぐ歯止めになってきた建築確認システムが、98年の改正によって、逆に“安全緩和”に変質したことがわかる。
姉歯元建築士は、国交省認定の構造計算ソフト(106種)を改ざんしていたが、魚住氏によると、98年改正によって、コンピュータなしでの構造計算が困難になり、プログラム自体がブラックボックス化し、専門家でも短時間では解読できなくなったといわれる。本来、欠陥建築を防ぐための「車の両輪」とされた建築基準法と建築士法(ともに50年に施行)だが、建築技術が高度化するにつれ、自治体の建築指導主事のチェック力が、要員の不足もあって民間の建築技術に追いつかなくなくなった。そのうえ、構造設計をチェックできる建築士は、デザイン設計士より低く見られがちで、地位や技術力を向上させる努力を怠ってきたことも、今回の偽装事件を生むことにつながったとみられている。
政府は、再発防止のため、建築基準法、建築士法、宅地建物取引業法、建設業法の建築関連4法案の改正を今国会で行い、成立から1年以内に施行することにしているが、この事件の責任のいきつくところは、規制緩和のかけ声の下、こうしたシステムづくり急いだかつての建設省=国交省にあることだけは間違いない。
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