今国会の重要法案のひとつに位置づけられた教育基本法改正案は、民主党提出の法案とともに衆院教育基本法特別委員会で審議されていた。しかし、小泉首相は、6月18日で会期切れとなる通常国会の会期を延長しないことを決めたため、法案は審議未了のまま、次の国会で継続審議されることになった。
櫻井氏は、この審議のヤマ場で行われた参考人質疑で、現行の教育基本法は「個人の尊重」ばかりが目立ち、「日本や家族を愛する」という表現がない、と率直な感想を披露した。
教育基本法(1947年制定)の改正は、「1955年の結党から50年、自民党にとっては憲法改正とならぶ悲願」(中曽根康弘元首相)だ。しかし、6年がかりで練られた教育基本法案も、連立のパートナーである公明党に配慮した結果、「いじいじした」表現に変わってしまったのである。とりわけ問題になったのが、「愛国心」の表現だった。自民党が当初「国を愛する」と主張したのにたいして、公明党が「それでは『統治機構を意味する国』を愛する、と誤解されかねないし、それは、戦前の国家主義を連想する」と反対、結局、「わが国と郷土を愛する態度を養う」という文言に落ち着いた。自民党内では、中曽根元首相が「格好を大事にして、心が抜けている」と批判するなど、反発は少なくなかった。
民主党の法案は、「日本を愛する心を涵養する」とズバリ愛国心を文言にし、さらに「祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び」と続き、どちらかといえば、当初の自民党案にほとんど同じものといってよい。民主党のリベラル、左派系の議員の反対で、法案自体がまとまらないのでは、との見方もあったが、すんなりまとまった。自民党内の保守グループも「民主党案の方がいい」と評価するほどだった。
また、宗教教育の尊重については、政府案が「宗教に関する寛容の態度、一般的な教養及び宗教の社会生活における地位」としたのにたいして、民主党案では「宗教的感性の涵養及び教育に関する寛容の態度を養うこと」と分かれた。また、政府案が、日教組の影響力の排除を考えて「不当な支配に服することなく行われるべき」と盛り込んだのにたいし、民主党案では「学校の自主性及び自律性が十分に発揮されなければならない」と明記されている。
自民党では、森喜朗前首相ら歴代の文相・文科相経験者が特別委に参加し、審議をリードするなど、今国会での法案成立に向けて懸命だった。審議の行われた時間は約50時間、会期が延長されれば実現すれば成立は可能とみられたが、小泉首相が延長しない旨を表明、このため、さる1日には、文教族幹部らが大挙して首相官邸に押しかけ、会期延長を迫る一幕もあった。首相は「その情熱を秋まで持ち続けて下さい」とかわした。
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